救急隊はできる限りの処置を行っていますが、搬送される病院が高度な治療を十分に提供できる施設でなければ、治療効果が限定され、生存率が下がるリスクが高まってしまうのです。

研究では搬送にかかった時間も比較しており、生存率が高い地域では病院までの搬送時間が中央値で11分と比較的短かった一方、生存率の低い地域では13分と若干長くなっていました。

搬送時間が延びることで救急隊が現場で行う処置が増える傾向がありますが、処置時間が延びるほど専門的治療が受けられるまでの時間も長くなるため、生存率が下がる可能性が高まると考えられます。

つまり、高度な処置をどれほど現場で頑張って行ったとしても、早く専門的な治療が可能な病院に搬送できなければ、結局は効果が限定されてしまうという現実が浮かび上がりました。

こうして得られた結果は、「交通事故による心停止患者が助かるかどうかを左右していた要因は、年齢や事故状況だけでは説明できない地域ごとの医療体制の差である」とする、研究者たちの仮説を強く裏付けるものでした。

救える命を地域で見捨てないために

救える命を地域で見捨てないために
救える命を地域で見捨てないために / Credit:Canva

今回の研究が示したのは、交通事故で心肺停止になった際に「命が助かるかどうか」を決めている最大の要因が、実は患者自身の状況よりも、その地域にある医療体制や搬送システムにあるということです。

つまり、どんなに事故現場で最善を尽くしても、その地域に十分な救命設備がなければ、助かる確率が低くなってしまうという、非常に重要な問題を浮き彫りにしています。

実際に研究を主導した新潟医療福祉大学の安達哲浩講師は「地域による医療アクセスの格差”が生存に大きく影響していることが分かりました。どの地域にいても適切な救命処置が受けられる体制づくりが急務です。救急救命学科の学生にも、このような現実に目を向けながら、現場での判断力と行動力を養ってもらいたいと願っています。」と述べています。