救急車が事故現場に到着し、その後病院まで患者を搬送する時間を調べたところ、生存率が高い地域ほど搬送にかかる時間が明らかに短いことが分かりました。

ただし、より厳密に分析すると、搬送にかかった時間そのものが単独で生存率の差を説明するわけではなく、『病院への迅速な搬送』や『病院側の医療体制』など、複数の要素が絡み合っている可能性が示されました。

もう一つ重要な発見は、実は生存率が低い地域のほうが、『目撃された心停止』や『市民が心肺蘇生(CPR)を行った割合』が高かったということです。

しかし、統計的により詳しく分析すると、『目撃者がいること』や『市民がCPRを実施すること』は、むしろ生存率を高める効果を持つことが分かりました。

つまり、生存率が低い地域では目撃やCPRがあっても、その後の病院搬送が迅速に行えないなど、他の問題が原因で救命が難しかった可能性があります。

これらの要素は、生存率を高めるために非常に重要であることが統計的に明らかとなっています。

「すぐに事故を目撃した人が助けを呼ぶ」、「周囲の人が心肺蘇生を行う」、「高度な治療が可能な医療施設へ素早く搬送される」という流れがスムーズに行われる地域ほど、患者が助かる確率が高まっていたのです。

一方で、生存率が低い地域では、救急隊員が行う医療処置の中でも特に高度な処置が頻繁に行われていました。

救急救命士(ELST)が気道を確保するための気管挿管を実施した割合は37.7%、心停止患者にアドレナリン(エピネフリン)を投与した割合も29.8%で、これらは生存率の高い地域よりむしろ高かったのです。

これは一見すると奇妙に思えるかもしれませんが、背景には明確な理由があると考えられます。

生存率が低い地域では、高度な医療を提供できる病院への搬送割合が低く、その結果として救急隊が現場や搬送中にできる限りの高度な処置をせざるを得ない状況になっていた可能性があります。