「気体から作る」人工ダイヤモンドに対して、「同成分の物質を溶かして作る」のが京セラのエメラルドである。
具体的には、エメラルドと同じ成分をもつ「ベリル原鉱石」を、1410℃以上の高温で溶かし、種結晶に付着させ、エメラルドとして成長させる、というものだ。天然エメラルドの生成環境を人工的に再現すると言う点では「高温高圧法」に類似する。
京セラの人工エメラルドも、「化学的には」天然エメラルドとほとんど同じ物質である。むしろ不純物が少なく、天然より高い色調と透明感を持つとも言われる。
このように、人工ダイヤモンドと人工エメラルドの生成過程は、大きく異なる。よって、製造面にシナジー(相乗効果)はない。人工ダイヤモンド市場において、京セラは「門外漢」なのだ。そこで、原石製造は自社で行わず、外部(インドのスターブルー社など)の石を利用する。シナジーがないにもかかわらず、人工ダイヤモンド市場に参入するのは、市場が急拡大しているからだ。
宝飾用の人工ダイヤモンド市場は、2030年には24年の2.5倍にあたる1.7兆円(118億ドル)へ、2032年には2.4兆円(163億ドル)へと、急成長が見込まれている。背景には、消費者意識の変化がある。
コスパ意識の高まり
顕著なのがコスパ(費用対効果)に対する意識の高まりだ。
「給料3ヶ月分が目安です」と喧伝されていた1970年代~2000年頃、最も多く購入されたのは、40~50万円の「0.3カラット」のダイヤモンドリングだった。小さなダイヤモンド1つをセットしただけなので「輝いて見えず」美しさに欠けると言われる。
一方、現在の(中堅メーカーの)人工ダイヤモンドなら、この金額で「2カラットのラウンドブリリアンカットリング」を購入することができる。カットされた57面から差し込んだ光が、内部で複雑に反射して、まばゆいほど輝くという。
人工ダイヤモンドの販売店は以下のように述べる。