これまで腸内環境を改善するためには、ヨーグルトや食物繊維を毎日地道に摂り続けるといった長期的なアプローチが一般的でした。
しかし、それらの方法では短期間に腸内環境を劇的に改善することは困難でした。
なぜなら、腸の中には非常に多くの種類の細菌が存在していて、それらが複雑に絡み合いながら共存しているため、外からの刺激に対して簡単に変化しないという強い「安定性(レジリエンス)」があるからです。
たとえば、ヨーグルトを食べても、すでに安定した細菌同士のバランスを崩して新しい乳酸菌が定着するのは簡単ではありませんでした。
ところが今回の研究では、まず腸内細菌の頑固な安定性を「断食」によって一時的に弱めることができるという重要な発見がありました。
一度食事を完全に止めると、腸内細菌は普段の栄養を失ってバランスが大きく崩れます。
すると、それまで抑えられていた菌や隠れていた菌が一気に増える機会を得るのです。
研究者はこの絶好のタイミングを利用して、特定の菌が大好きなMACs(腸内細菌のエサ)を投与しました。
すると期待どおり、そのエサが好きな菌だけが短期間で爆発的に増えることが確認されたのです。
これはまるで腸内という土地をいったんきれいに整地したあとに、特定の種だけを集中的に植えて育てるような戦略といえます。
その結果、わずか36時間という非常に短い時間で狙った細菌を効率よく増やすことが可能になりました。
この新しい腸活法が特に興味深いのは、腸内細菌を増やすだけではなく、腸の免疫機能を大きく高める可能性まで示した点です。
実験では、断食後にフラクトオリゴ糖(FOS)を与えることで腸内の乳酸菌(ラクトバチルス属)が急激に増え、腸内の免疫を支えるIgA抗体が通常より18倍も増えました。
腸内の免疫が高まると、感染症を防いだりアレルギーを抑えたりする効果が期待できます。
実際、FOSとラクトバチルス属の組み合わせが腸のIgA産生を促進することはこれまでも知られていましたが、今回のように「断食直後に与える」という方法が、これほど強力な効果をもたらすとは予想外でした。