モノの製造には工場や機械などの施設、賃料や不動産取得費用、労賃、材料費、管理コストがあります。ここでは労賃だけを例にとりましたが、不動産価格から製造コスト、材料費に至るまで全部押しなべて高いのです。ここでは話を簡素化するためにアメリカではアジアに比べて25%の製造コストが余計にかかるのだと仮定します。
ところでEUも8月1日に向けてアメリカとの交渉が進みますが、EUでは24日に政策委員会会合が行われ、トランプ関税が経済学的にEUにどれだけの衝撃があり、どれだけの耐性があるか学術的に分析した結果を話し合う予定です。(日本ではそんな会議はされていないでしょうね。)その際、私が想像するのはEUは工場をアメリカに出す方がはるかに安く、その場合の欧州内の空洞化対策が主眼になると予想しています。なぜなら労賃については雇用に関する付帯コストを考えると欧州が最も高いからです。先ほどの労働政策研究所の数字ではフランスは購買力平価で日本と比べ165,ドイツは185となっています。つまり労働コストがアメリカよりはるかに高い欧州においてはアメリカに工場を移設した方が安く作れるという結果になるはずなのです。
もう一つは労働生産性です。つまり単位当たりの産出量の計算です。各国、労働生産性を発表していますが、国ベースの労働生産性の計算はGDPと総労働投入量で引き出されます。アメリカの労働生産性は同国統計局が四半期毎に発表しています。戦後からの長い目で見れば確かに下がってきてはいますが、大崩れしていません。理由は物価が投入労働力より上昇していることと機械化により労働投入量が減っているからです。個人的には労働生産性の国家間比較は数値の補正をしてもほとんど無意味だしアメリカの労働生産性は低くないというのを数字から見ても何も得られないと考えています。実態としては欧米の労働生産性はアジアのそれと比べると2倍以上の差異が出ているはずです。