さらに興味深いことに、太っているのに血糖値や血圧が正常な「健康的な肥満」と、肥満に加えて糖尿病や高血圧を伴う「不健康な肥満」が存在します。

こうした現象は経験的に知られていましたが、その理由について明確な答えは出ていませんでした。

一体、同じ「肥満」という言葉で表されるこれらのタイプの違いは、何が原因で生まれるのでしょうか?

実は近年、この謎を解く重要なカギとして「遺伝子」が注目され始めています。

2007年に肥満と関連する遺伝子変異が初めて『FTO』遺伝子内で発見されました。

【コラム】肥満に関連するFTO遺伝子変異とは?

2007年に発見された「FTO遺伝子」とは、人の食欲やエネルギーの使い方に深く関係する遺伝子の一つで、脳の視床下部という部分で特に活発に働いています。この視床下部は、私たちがどのくらい食べるか、いつお腹が空くかといった「食欲」や「満腹感」を調整する司令塔のような役割をしています。このFTO遺伝子に変異(通常と異なる小さな違い)があると、脳での食欲調整が少しだけうまくいかなくなります。具体的には、満腹感を感じるまでにより多く食べてしまったり、高カロリーな食べ物を無意識に好むようになったりする傾向があります。そのため、この変異を持つ人は持たない人に比べて体重が増えやすく、肥満になる可能性が高いことが分かったのです。重要なのは、このFTO遺伝子の変異はごくありふれたもので、実は多くの人が持っているとされています。たとえば日本人を含む東アジア人では約20~30%、欧米人では約40~45%もの人がこの変異を少なくとも1つ持っていると言われています。また、この変異を2つ(両親から1つずつ)受け継いだ人は、1つだけ受け継いだ人よりもさらに太りやすく、持っていない人に比べると平均で約3kgほど体重が増えやすいというデータもあります。このように、FTO遺伝子の変異は決して珍しいものではなく、多くの人が「肥満リスクを高める変異」を持ちながら生活していることがわかっています。この発見によって、肥満は単に自己管理不足だけでなく、生まれ持った遺伝子の影響も大きいことが明らかになり、個人の体質に合わせた肥満の予防や治療方法が求められるようになりました。