日本では、「セックスレス社会」という言葉がメディアでたびたび取り上げられますが、今回の研究が示したように、性生活の頻度が認知機能の低下と結びついているなら、これは個人の問題にとどまらず、社会全体の“脳の健やかさ”にも関わる問題になるかもしれません。

孤立が進み、ふれあいや会話が減っていく社会のなかで、私たちの脳は、機能が低下しやすい状況に置かれている可能性があるのです。

とはいえ、誰もが「セックスの頻度」を自由に選べる状況にあるわけではありません。現代はパートナーがいない人も多いとされていますし、性に積極的な気持ちになれない人も珍しくありません。

だからこそ、大切なのは「行為」ではなく「つながり」なのかもしれません。

今回の研究は、性行為に着目していますが、示している事実は人と心や身体を通じて触れ合い、“自分がここにいる”と感じられるような経験が、脳にとって大きな意味を持つということです。

たとえば、友人との何気ないおしゃべりや、ペットと触れ合う時間。人の温もりを感じられるマッサージやスキンシップ。誰かのために料理をする、手紙を書く、電話をかける――そんな小さな行為すべてが、「孤立しない脳」をつくる材料になるでしょう。

セックスは、そのひとつのかたちにすぎません。脳に必要なのは、「実体験」ではなく「実感」です。

便利さと孤立が進むこの時代だからこそ、“誰かと生きている”という感覚を、大切にすることが脳にも、心にも、そして社会そのものにも、じんわりと効いてくるのではないでしょうか。

そう考えると、最近流行っている「推し活」も、“誰かと生きている”という感覚を生み出すことで、結果的には様々な健康を守っているのかもしれません。

全ての画像を見る

参考文献

Low sexual activity, body shape, and mood may combine in ways that shorten lives, new study suggests