この研究の特徴は、単なる一時点のデータではなく、10年という長期的な変化に焦点を当てている点にあります。そして、対象者の生活背景が非常に多様であるため、現実の社会をある程度反映した結果といえるのも大きなポイントです。
では、このように丁寧に調査されたデータから、どんな結果が得られたのでしょうか?
性生活と脳の変化に意外なつながり
分析の結果、性生活の頻度が月に1回未満である人たちは、10年後における認知機能のスコアが有意に低下していることが明らかになりました。
この傾向は、年齢や性別、教育、所得、うつ症状、持病の有無など、認知機能に影響を及ぼすさまざまな要因を統計的に取り除いたうえでも、なお残るものでした。
認知機能の低下とは、たとえば言葉の出づらさ、記憶力の低下、注意が散漫になることなどにつながります。
そして、こうした変化は日々の生活の中でじわじわと感じられるものです。ちょっとした「ど忘れ」や、話している途中で言葉が詰まるような感覚――それが蓄積すると、やがては生活の質そのものに影響を及ぼします。
研究チームは、この結果を「セックスそのものが脳を直接活性化させている」というよりも、性的なつながりが、さまざまな健康的要因と連動している可能性を示すものと見ています。

たとえば、性生活が活発な人は、パートナーとの良好な関係性を保っていたり、身体を動かす機会があったり、うつ傾向が少なかったりと、生活全体が活性化している傾向があると考えられ、これらの要因が複雑に影響し合っていると考えられます。
それが結果的に脳の活性化や健康に繋がっているというのは、不思議な話ではないでしょう。
とはいえ今回の研究は大規模データを用いた分析であり、あくまで「相関関係」を示したもので「因果関係」を直接証明したものではありません。
ただひとつ確かなのは、性生活が極端に減ることが、脳の健康にとって無関係とは言えないという事実です。