投資の出口より「起業家の人生」を見つめる

 千葉道場ファンドの特徴のひとつが、投資先の会社をベンチャーキャピタルの投資先ではなく、起業家として、一生に付き合い続けるという哲学がある。ベンチャーキャピタルとしてはIPOの経験を持つ千葉氏、M&Aの経験を持つ石井氏の知見を用いて、支援ができる体制は整っている。しかしスタンスとして、「起業家の人生に寄り添う」ーーというのが千葉道場の考え方だ。

「私たちはスタートアップという企業ではなく、“人”を支援しているんです。たとえ1回目のチャレンジで届かなくても、人生の2週目、3週目で星を目指せばいい。どこかのタイミングで“Catch the star”を実現してくれたらうれしい、そういう気持ちで起業家に向き合っています」

 千葉氏のこの言葉には、起業家人生に対する深い理解と共感がにじむ。

 実際に、千葉道場の初期メンバーの多くが、会社売却を経て、再び起業の道を選んでいるという。この独自の投資スタイルに対して、LP(出資者)も十分に理解した上で支援しており、「上記のスタイルも含めた千葉道場コミュニティを支援している」といった共通認識がある。実際、千葉道場ファンドは着実にリターン実績も積み上げている。

 起業家にIPOの期限を急かしたり、売却の際に過度な回収に走ることはしない。一方で、自分たちには明確な責任を課すーー、その姿勢が、千葉道場ファンドの“型”である。

「VCはポートフォリオマネジメント。ファンドの仕上がりに対して責任を負うのは私たちであり、リスクを取るのもファンド側です。起業家サイドのビジョンややりたいことを妨げてまでもVCの都合を押し付けるのは、違うと考えています」(千葉氏)

セカンダリー市場への提言と、文化を変える覚悟

 スタートアップ市場の課題を、千葉道場のメンバーたちはどのように捉えているのだろうか。

 千葉氏は、スタートアップ投資における“構造的課題”として、「セカンダリー市場の未整備」を挙げる。2014〜2015年ごろに組成されたファンドが2025年に満期を迎えるなか、セカンダリー売却やM&Aのニーズは確実に高まっている。しかし一方で、「M&Aやセカンダリー=IPOできなかった会社」という根強い誤解があり、正当な価格での取引が成立しづらい構造が続いている。

「これはプレイヤーが足りないからではありません。最大の障害は“文化の壁”なんです。認識を変えていくことで促進されるものもあると思います」(千葉氏)

 文化の変革には、一つひとつの言葉の使い方から見直す必要があるーーそれが千葉道場の姿勢だ。千葉道場は“型”を崩さず、伝統と信頼を積み上げていくことを目指し続ける。

(寄稿=相馬留美/ジャーナリスト)