たとえば「リスク」という言葉。日常生活では、「リスク=危険」という意味合いで使われることが多い。「その計画はリスクがあるからやめよう」と言えば、ほとんどの人は「危ない、やめておけ」という意味で受け取るだろう。
しかし、ビジネスや投資の世界ではリスクはまったく別の意味を持つ。ここでの「リスク」とは「振れ幅」や「不確実性」を意味し、利益と損失の両方を含むのが正しい解釈だ。たとえば、投資家は「リスクを取らなければリターンも得られない」と考える。逆にリスクがなければ損失もないが利益もゼロだ。
このように、「リスク」という一語は、文脈によって解釈が大きく異なる。適切な文脈を共有している者同士であれば、この言葉を使うだけで何段階もの説明を省略できる。それが専門語の「情報圧縮力」である。
ちなみに今回の事例で言えば「日常生活の文脈における”リスク”」という言葉の使い方が適切でないだろう。ネガティブな面しか見ないという意味で使うなら「リスク」の代わりに、「マイナス面」「損失」といった別の言葉を使うべきなのだ。日常生活での「リスク」という言葉を誤解することで、ビジネスや投資でもうまくいかなくなってしまう。
難解語は“フィルター”にもなる
難しい言葉は、単に知識を示すだけではない。それを理解できるかどうかが、ある意味で「会話のフィルター」として機能する場合もある。高度な議論をしたい者同士にとっては、共通語を持つことが効率的な意思疎通に不可欠である。
逆に言えば、あえて平易な言葉にせず、あえて専門用語を使うことで「この話はその前提を知っている人に向けて発信している」というメッセージにもなる。
これを“排他的”と感じる人もいるかもしれないが、それは「難しい言葉が理解できない人を見下している」のではない。必要に応じて「高度な文脈で話す」というだけの話である。
実際、筆者はこの記事を書く上で読み手を絞っている。そもそもテーマが一般受けしない上に、難解語をそのまま使っているには理由がある。届ける相手を絞る、という目的を達成するための設計なのだ。