デジタル広告のパイオニアが挑む「最後の非効率」

 MNTNの創業者であるマーク・ダグラス氏は、20年以上にわたりテクノロジー業界の第一線で活躍してきた人物である。オンラインデーティングサービスeHarmonyのVPoT(Vice President of Technology:システムの責任者)や、広告テクノロジー企業The Rubicon Project(現Magnite)のVPoE(Vice President of Engineering:エンジニア組織の責任者)を歴任し、パフォーマンスマーケティング(いわゆる成果報酬型のマーケティング)の世界を知り尽くしていた。

テレビ広告を勘から科学へ… アドテクユニコーンが中小ブランドを主役にの画像1
(画像=画像はHPより引用)

 MNTNのルーツは、2009年にマーク・ダグラス氏によって設立されたSteelHouse, Incにある。当初はディスプレイ広告やリターゲティングといった、すでに競争が激化しコモディティ化が進んでいた市場で事業を展開していたが、2018年にまだ黎明期にあったコネクテッドTV(CTV)市場に大きな市場機会を見いだす。

 CTVという、いわばデジタルインフラを持つテレビがあれば、広告史上初めてテレビ広告の成果を「測定可能」にし、デジタル広告のように成果をみながら「運用」できる世界をつくることができると気づいたわけだ。その後、既存事業のほとんどを切り捨て、ストリーミングTVの広告という事業領域に特化した。

「ケーブルテレビの番組表やDVR(デジタルビデオレコーダー)は、もはや過去の遺物になった。しかし、広告主とストリーミングネットワークの関係はほとんど変わっていなかった。私たちは、そのギャップを埋めるためにMNTNパフォーマンスTVを立ち上げたのである」。株主への手紙で彼はこう語った。ここの間隙こそが、テレビという巨大メディアに残された「最後の非効率」だという。

「パフォーマンスTV」革命。CMを科学するMNTNの仕組み

 MNTNの核心は、テレビ広告を「ブランド認知」のためのブラックボックスな高額施策から、「売上」に直結する有力なチャネルへと転換させたことにある。リスティング広告やMeta広告などを運用するように、誰でも簡単にテレビCMの出稿、ターゲティング、効果測定、最適化などを行えることが何よりの強みだ。

 これを実現するのが、同社独自の2つのテクノロジーである。

** MNTN Matched(AIターゲティング技術) ** : 4億台以上のデバイスから得られるサードパーティおよびファーストパーティのデータを活用し、広告主の商品やサービスに最も関心を持つ可能性の高い世帯をAIが特定する。これにより、従来の大雑把なデモグラフィックターゲティングとは一線を画す、精緻なオーディエンスリーチを可能にする。

** Verified Visits Technology(クロスデバイス効果測定) ** : 家庭内の様々なデバイス(テレビ、スマートフォン、PCなど)を連携させ、テレビで広告を視聴したユーザーが、その後どのデバイスでウェブサイト訪問や商品購入といったアクションを起こしたかを正確に追跡。これまでブラックボックスだったテレビCMのROASを算出することができる。

 要するに、そもそも正確なターゲティングでCTV経由の広告を流すことができ、その後のアクションまで測定することができる。データが蓄積されればされるほどターゲティングの精度が上がるという、従来のデジタル広告のような正のループを実現する。

 視聴習慣やオンラインでの行動といった無数のシグナルを分析し、「最近、職人技のコーヒー豆について検索した料理番組の視聴者」など、極めて精緻なオーディエンスセグメントを構築できる。従来の「20代・女性」などといった荒い粒度のデータを基にするよりも、はるかに高い広告効果が期待できる。

 日本ではノバセルやテレシーなどが運用型テレビ広告の代理店事業や分析ツールの開発・提供を手がける企業として知られる。MNTNは広告主自身が管理画面上でCTV向けの広告を配信し、成果を確認しながら運用できるプラットフォームを提供しているという点でビジネスモデルが異なる。