人間は暑いと汗をかいて(皮膚の上で蒸発することで)体温を低下させますが、もし建物も「汗をかけたら」どうなるのでしょうか?
シンガポールの南洋理工大学(NTU)は、そんな斬新な発想を元に、画期的な冷却塗料「CCP-30」を開発しました。
この塗料は蒸発冷却を利用しており、汗のように内部に含まれた水分を蒸発させることで、電力を使わずに建物を冷やします。
2年間の実験では、新塗料を用いた建物ではエアコンによる電力消費が30~40%も削減されました。
研究成果は、2025年6月5日付の科学誌『Science』に掲載されました。
目次
- 「汗をかく」ようにして建物を冷やす新塗料を開発
- 新しい「蒸発冷却」塗料により、エアコンによる電力消費が40%減
「汗をかく」ようにして建物を冷やす新塗料を開発
地球温暖化の進行とともに、都市部ではヒートアイランド現象が深刻化し、建物内の冷房需要が増加の一途をたどっています。
国際エネルギー機関(IEA)によれば、世界の建物の電力使用量の約20%が冷房に使われています。
電力消費が増えれば、CO2排出も増加し、温暖化がさらに進行するという悪循環に陥ります。
この問題を解決する鍵として注目されているのが「パッシブ冷却技術」という、電力を使わず自然の仕組みで建物を冷やす手法です。

その技術の1つに建物を「冷却する塗料」が存在します。
従来の冷却塗料の多くは「放射冷却」に依存していました。
これは、塗装面から赤外線を放射し、宇宙の寒冷な空間へと熱を逃がす仕組みです。
特に屋根など、空を向いている面では高い効果を発揮します。
しかし、この仕組みには大きな弱点があります。
湿度が高い地域では空気中の水蒸気が赤外線を吸収し、熱が逃げにくくなるため、効果が大きく低下するのです。
また、放射冷却は空を向いた面に限られるため、ビルの側面などでは期待されるほどの効果を発揮できません。