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2004年、ドイツの環境相だったユルゲン・トリッティン氏は、再生可能エネルギー促進のための賦課金は「月額わずか1ユーロ、アイスクリーム一個の値段だ」と語った。

しかしそれから20年経った今、皮肉な事態が起きている。ドイツの与党・緑の党がこの7月、アイスクリームの価格統制を要求したのだ。緑の党は「貧しい子供たちにもアイスを買えるようにするため」と主張するが、そもそも電気代高騰でアイスを贅沢品にしてしまったのは他ならぬ彼らの脱炭素政策だった。

この皮肉な出来事は、ヨーロッパでネットゼロ(温室ガス実質排出ゼロ)に突き進む「気候正義」派のイデオロギー優先と経済音痴ぶりを象徴している。彼らの強引な脱炭素政策への固執が、欧州全体を深刻なエネルギー危機と生活費高騰に陥れてしまったのだ。

ネットゼロ目標とは、2050年までに人為的なCO2排出を実質ゼロにするという壮大な計画で、先進各国は競うようにこの目標を掲げてきた。だがそもそも実現不可能な目標であるだけでなく、それに向けて導入された政策は電気代の高騰などを招き、極めて不人気になった。

気候変動対策は、移民問題に次ぐ主要な政治争点となり、各国で国民の怒りが噴出した。電力・ガス代などの生活コストが急騰すると、欧州では既存エリートによる「脱炭素万歳」への反発から、大衆政党の躍進が目立つようになった。

現在の欧州主要国では、軒並み、ネットゼロに懐疑的・反対の立場を取る政党が政権与党、あるいは最大野党にまで台頭している。

イタリアではメローニ首相率いる右派政権がネットゼロに慎重であり、英国でも与党・保守党のベイデノック党首がネットゼロ目標に公然と疑義を呈した。フランスではマリーヌ・ルペン氏が前党首を務めた国民連合(旧・国民戦線)が最大野党となり、ドイツでも右派ポピュリスト政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持率が急上昇し最大野党になっている。