言うなれば、激しく盛り上がった「素粒子たちのパーティー」のような状態です。

しかし、この熱狂的なパーティーは永遠に続きませんでした。

宇宙は急速に膨張して温度が下がり、クォークたちは再び集まりはじめ、今度は原子核の中に閉じ込められていきます。

この時、激しかった素粒子たちのパーティーの「後味」がどのように残ったのかを知ることが、宇宙の起源や初期宇宙の性質を探るためには極めて重要になります。

この宇宙誕生直後の物質の「後味」、つまり素粒子がどれくらい動きやすかったのか、どのくらい粘り気があったのか、といった性質を科学者は「輸送係数」という言葉で表します。

ただし、宇宙誕生直後にタイムマシンで戻って、実際にこの「宇宙スープ」をかき混ぜてみることは当然できません。

そこで科学者たちは、この宇宙誕生直後の環境を地球上で再現することにしました。

再現された極限状態の宇宙スープを調べるための理想的な「測定器」になるのが、チャームクォークやボトムクォークという非常に重いクォークを持つ粒子(重粒子)です。

これらの重粒子はまるで超重量級の粘度計のように機能し、宇宙誕生直後の激しく熱いスープの粘り気や動きやすさを敏感に感じ取ることができるのです。

これまでの研究では、主にクォークグルーオンプラズマそのものの性質や、その中での粒子のエネルギー損失などについて多くのことがわかってきました。

しかし、宇宙が冷え始めて再びクォークが閉じ込められ、普通の粒子(ハドロン)に戻っていく段階ではどのようなことが起きていたのでしょうか?

実はこの「パーティーが終わった後」の冷却過程での粒子のふるまいについては、まだ十分には理解されていませんでした。

本当に宇宙誕生の瞬間の謎を完全に理解するには、このパーティー後の冷却段階の調査が欠かせないのです。

では、実際の実験では、どのようにして宇宙誕生直後のスープを再現し、その「後味」を調べているのでしょうか?

ビッグバン直後の宇宙スープは予想外に「濃厚」だった

ビッグバン直後の宇宙スープは予想外に「濃厚」だった
ビッグバン直後の宇宙スープは予想外に「濃厚」だった / Credit:Canva