ところが、宇宙が誕生してすぐのほんの一瞬(それでも宇宙の歴史の中では重要な瞬間です)、温度は1兆度をはるかに超え、現在の太陽の中心よりもずっと熱い、究極の極限状態でした。

この極限状態では、クォークを束縛していた「色の力」と呼ばれるゴム紐のような力がうまく働かなくなってしまいます。

なぜなら、高温でたくさんの粒子が激しく動き回っているため、「デバイ遮蔽」という現象によって、クォーク同士を長く引きつける力がかき消されてしまうからです。

【コラム】デバイ遮蔽とは何か?

「デバイ遮蔽」という言葉を聞くと、難しい物理現象に感じられるかもしれませんが、実は日常的な出来事にも似た現象があります。例えば、騒がしいパーティー会場を想像してみてください。会場が非常に混雑していると、自分の友達の声は近くにいればよく聞こえますが、少し離れてしまうと周囲の騒音にかき消されてしまいます。物理の世界でも似たようなことが起きます。宇宙誕生直後の超高温状態では、非常にたくさんの粒子が猛烈なエネルギーで激しく動き回っていました。粒子同士は本来、お互いを強く引き付けたり押し離したりする力で結びついていますが、粒子が多すぎると、間にあるたくさんの粒子がその力を「邪魔」することになります。その結果、粒子同士の力は近くでは強く働きますが、距離が離れると急速に弱まってしまいます。この効果を「デバイ遮蔽」と呼ぶのです。言い換えれば、デバイ遮蔽はまるで「混雑したパーティーの騒音」のように働いて、クォーク同士のコミュニケーションを妨げてしまう現象と言えるでしょう。デバイ遮蔽のおかげで、クォークたちは宇宙が生まれた瞬間だけ、まるでパーティー会場で自由に動き回る人のように自由な状態を楽しめるようになったのです。

こうして、クォークたちは初めて自由になり、グルーオンと一緒に宇宙空間を好き勝手に飛び回れるようになりました。

このように、クォークとグルーオンが完全に自由な状態で混ざり合い、猛烈な勢いで動き回っている状態を科学者は「クォークグルーオンプラズマ(QGP)」と呼んでいます。