ボールを水面に落とすと最初は激しい水しぶきがあがりますが、時間が経つにつれてその波は収まっていきます。

しかし波が収まった後も、ボールは水の中で泳いでいる人々に何度もぶつかりながらゆっくりと動き続けます。

実験での重いクォークもまさにこの重いボールのように、最初の激しい衝突(クォークグルーオンプラズマ)段階を通り過ぎた後でも、冷えていく環境(ハドロン物質段階)で衝突を繰り返しながらゆっくりと動きます。

研究者たちは、実験から得られた重い粒子の運動データを詳しく調べました。

具体的には、実際の実験データと理論的なシミュレーションを照らし合わせて、粒子がどのようにエネルギーを失い、粒子同士の相互作用でどのようなパターン(流れ)を示したかを細かく解析したのです。

その結果、これまで注目されていなかった「冷えた後のハドロン段階」においても、重い粒子は予想以上に多くの粒子とぶつかっていることが明らかになりました。

しかも、この冷却段階での粒子同士の衝突が、重い粒子が最終的に検出器で観測される際のエネルギーや運動方向に大きな影響を与えていることが判明したのです。

つまり、重いクォークを含む粒子たちは、最初の激しいクォークグルーオンプラズマ状態を通過した後の「冷めていく宇宙スープ」の状態も含めて、その動きや衝突の履歴をしっかりと記録していたことになります。

言い換えれば、重い粒子は宇宙誕生直後の激しい環境だけでなく、その後の冷却過程の情報までをもタイムカプセルのように現在に届けているのです。

実験を主導した研究者の一人、フアン・M・トーレス=リンコン博士(バルセロナ大学ICCUB)は、この点について「この冷却段階は、粒子がエネルギーを失いながら一緒に流れる現象を理解する上で欠かせないものです。この段階を無視してしまうと、宇宙誕生という巨大なパズルの肝心なピースを見逃してしまうことになります。」と語っています。