また、近年注目される「スピントロニクス」と呼ばれる新技術では、電子が持つ磁気的性質(スピン)を使って情報を伝えることで、従来の電子工学の限界を超えようという試みが行われています。
電子は動かず『電子のスピンだけ』が流れて情報伝達できる微小チップを開発
この分野においても、スピノンの特異な性質が情報伝達の新たな手段となる可能性があります。
今回の研究で特に重要なのは、研究チームが「ナノグラフェン」という特別な分子材料を「量子レゴ」のように自在に組み合わせて、理論上のスピノンを実験的に実現したという点です。
ナノグラフェンは原子レベルの精密さで形や性質を調整できるため、量子の世界で起こるさまざまな奇妙な現象を実際に再現できる強力なツールとなっています。
これによって、他のさまざまな量子物理現象も実験室で再現できる可能性が広がりました。
具体的には、研究者たちは将来、ナノグラフェンを使って、フェリ磁性と呼ばれる少し複雑な磁性を示す鎖状構造や、さらには平面状に広がる二次元的なスピン構造を実現しようと考えています。
二次元のスピン構造はさらに多彩で複雑な量子現象を示すことが理論的に予測されており、未知の量子状態や、量子コンピューターなどの技術への応用の可能性も秘めています。
量子物理の理論モデルを次々と現実に再現する今回の研究アプローチは、一見すると子どもの遊ぶレゴブロックのようにも思えます。
しかし、このアプローチの本質的な意味はとても実用的です。
現代の量子技術(量子コンピューターや量子暗号通信、超高感度センサーなど)は、その性能が理論上では非常に優れているものの、実際に利用可能な状態で安定して維持するのはとても難しいのです。
そのため、実用化の壁は非常に高く、量子状態を確実にコントロールし、保持できる技術が強く求められています。
だからこそ、今回の研究のようにナノグラフェンを自在に組み合わせて理論上の現象を実験で実現する手法は、これらの量子技術の開発を前進させる重要な基礎的な役割を果たすでしょう。