これはまさに理論が予測した「単一スピノンの定在波」と呼ばれるパターンに一致します。
【コラム】定在波パターンを可視化することがなぜスピノンを観測したことになるのか?
スピノンという不思議な粒子を実験で確認したとき、研究者たちは「定在波パターン」を画像として捉えました。でも、なぜこの「波」のような模様を撮影できたことが、「スピノンそのものを観察できた」ことになるのでしょうか?
まず、「定在波」というのは、文字通り「その場で止まっている波」のことを指します。
水面に石を投げると、波は遠くまで広がっていきますが、もし池の両端が壁で囲まれていれば、波は進んだ後で反射して戻り、何度も往復を繰り返して、進まないままその場で上下に動く波(定在波)ができることがあります。今回の実験では、電子のスピン(小さな磁石の性質をもつ粒子)が一列に並んだ特殊な鎖を作りました。この鎖は両端が固定されているので、その中にできるスピンの波も進まず、その場にとどまったまま上下に動く定在波になったのです。スピノンは電子が持つスピンがちょうど半分だけ「分裂」した粒子です。通常の電子のスピンは1個単位で存在し、定在波も普通は整数単位でしか存在できません。ところが奇数個のスピン鎖のような特殊な環境では、理論的に「半整数(1/2)のスピン」を持つスピノンが定在波として存在できることが予測されていました。そのため研究者たちは、定在波パターンを捉えることで、「スピンがちょうど半分だけ」という奇妙な粒子スピノンが本当に存在していることを証明できたわけです。つまり、スピンが整数ではなく半分だけの定在波パターンが実際に観測できたということは、「スピノンが存在する確かな証拠」となったのです。
単一スピノンは鎖の端から端まで広がる波のように存在し、その波の節(ノード)が鎖の特定の位置に見られました。
これによって、研究者たちは長らく実験的に観測不可能と言われてきた「孤立した1個のスピノン」を定在波パターンとして視覚的に捉えることに成功したのです。