通常の物質で電子のスピンをひっくり返すと、安定したスピンのペア構造が崩れ、常に二つのスピノンがペアで同時に生じてしまいます。

そのため、一つだけ孤立したスピノンを取り出して観察することができなかったのです。

この状況から、「スピノンは必ずペアで現れ、単独では存在しない」と、実験物理学者たちは長年考えてきました。

こうした背景のもと、研究者たちは、理論的に予言されたこの不思議な粒子、スピノンを実験的に直接観測し、その謎を解明することに挑みました。

もし実験で孤立したスピノンを直接見ることができれば、量子力学が予測した不可思議な現象を裏付けることになり、さらには量子磁石にまつわる新たな物理現象の発見へと繋がるかもしれません。

そこで今回研究者たちは、『スピンの幽霊』を捕まえる試みに挑むことになりました。

研究者たちはこれまで誰も成功できなかった『スピンの幽霊』を、いったいどのような方法で捕まえたのでしょうか?

「スピンの幽霊」を観測!量子物理学の100年の予言が的中

「スピンの幽霊」を観測!量子物理学の100年の予言が的中
「スピンの幽霊」を観測!量子物理学の100年の予言が的中 / スピンの幽霊を顕現させるための檻として機能する鎖構造/図(E、F、G)に示されているのは、オリンピセンと呼ばれる特殊なナノグラフェン分子を使って作られた人工的な「スピン鎖」の合成プロセスです。まず最初(E)、研究者たちはオリンピセン分子同士を化学的に連結して鎖状に並べました。その後(F)、この鎖状の分子を水素で処理(水素化)して安定化させ、スピンの性質が一時的に抑えられました。そして最後のステップ(G)では、特殊な顕微鏡の針先(STMチップ)を用いて選択的に水素を取り除くことで、再びスピンを活性化させました。これにより、スピノンという特殊な粒子を観察するための理想的な量子磁性鎖が完成したのです。・Credit:Spin excitations in nanographene-based antiferromagnetic spin-1/2 Heisenberg chains