しかし、ピアス氏らの指摘によれば、この“慣れ”が記憶保持に対する悪影響を軽減するという科学的根拠は、まだ存在していません。

つまり、「若者のほうが倍速視聴に強い」のは事実かもしれませんが、現段階では脳の処理能力そのものが適応したという証拠はないのです。

さらに興味深いのが、倍速視聴によって「視聴の満足感や楽しさが落ちる」という点です。

たとえ記憶力にほとんど影響がなかったとしても、1.5倍速以上では「動画を見ている満足感」や「楽しさ」が低下するという報告が存在します。

これにより学習や情報収集のモチベーションが低下する恐れがあります。

倍速視聴は、現代の情報過多社会における効率的なツールとして重宝されています。

しかし速すぎる倍速視聴は「記憶」や「楽しさ」を犠牲にする可能性があり、それは本末転倒です。

「等速でじっくりと動画を味わう」という意識こそが今の私たちには必要なのかもしれません。

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参考文献

What happens to your brain when you watch videos online at faster speeds than normal
https://theconversation.com/what-happens-to-your-brain-when-you-watch-videos-online-at-faster-speeds-than-normal-259930

元論文

Increasing Video Lecture Playback Speed Can Impair Test Performance – a Meta-Analysis
https://doi.org/10.1007/s10648-025-10003-9

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。