「面倒なオンライン講義を早く終わらせたい」
「見たい動画がたくさんあるから、少しでも時短したい」
そんなときに役立つのが“倍速再生”です。
YouTubeやNetflix、あるいは大学の講義まで、多くのコンテンツが速度調整に対応しているため、倍速での視聴はもはや当たり前のテクニックになっています。
実際、アメリカ・カリフォルニアの学生を対象とした調査では、実に89%がオンライン講義の視聴速度を変更していたと報告されています。
しかしこの「便利な技術」は、私たちの脳にどのような影響を与えているのでしょうか?
ロンドン大学クイーン・メアリー(QMUL)の認知科学者マーカス・ピアース氏は、倍速再生が脳の記憶力や理解力にどんな影響を与えるかを教えています。
目次
- 脳は何倍速まで適切に処理できる?
- 「倍速の達人」でも安心できない理由
脳は何倍速まで適切に処理できる?
私たちが音声や映像を理解して記憶するプロセスは、脳にとってかなり複雑な作業です。
一般に、人が話すスピードは1分あたり約150語(英語)と言われています。
一方で、YouTubeなどで2倍速に設定すれば、脳は1分間に300語もの情報を処理しなければならなくなります。
さらに3倍速なら、450語/分という処理に突入します。
しかし、たとえ450語/分という速度であっても、私たちはその言葉を理解できます。
このとき私たちの脳は、まず「エンコーディング(符号化)」という段階で、流れてくる言葉の意味をリアルタイムで捉えようとします。
そして、その意味づけされた情報を一時的に「ワーキングメモリ(作業記憶)」に保持し、さらに重要な情報だけを長期記憶に転送するのです。

ところがこの「ワーキングメモリ」には限界があります。
容量は小さく、処理のスピードも無限ではありません。