●この記事のポイント ・吉野家HD、25年3~5月期連結決算では苦戦した牛丼事業を、うどん・ラーメン事業の伸長で補う ・「ラーメン世界一」を目指すと宣言し、ラーメン事業の売上高400億円、店舗数500を目標に ・「吉野家」初の麺メニューが好評、新規客層の拡大を狙う

 吉野家ホールディングス(HD)のラーメン事業が伸びている。2025年3~5月期連結決算の事業別の営業利益では牛丼の「吉野家」が前年同期比9.5%減だった一方、うどんチェーン「はなまる」は同9.3%増、ラーメン事業が入る「その他」は同約5倍に増加。全社の営業利益としては同20%増の約10億円となっており、苦戦した牛丼事業を、うどん・ラーメン事業の伸長で補うかたちとなった。「ラーメン世界一」を目指すと宣言し、ラーメン事業を第3の事業ドメインと定めて2029年度に売上高400億円、店舗数500を目標とする吉野家HD。その背景には何があるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

低価格競争が続く牛丼業界とは対照的

 7月4日、同チェーンとしては初の麺メニューとなる「牛玉スタミナまぜそば」(税込767円/店舗によって異なる)が発売され、話題を呼んでいる「吉野家」。その吉野家を展開する吉野家HDは現在、急速に“ラーメン企業化”を進めている。ここ数年、全国各地の比較的小規模なラーメン店・チェーンなどの買収を重ね、2024年にはラーメンに必要な原材料をひととおり製造してラーメン店に販売している宝産業を買収。中長期的にはラーメン事業を牛丼、うどんと並ぶ柱の事業に成長させていくシナリオを描いている。

「大きな背景としては、牛丼チェーンとして競合する『すき家』の運営元であるゼンショーホールディングス、『松屋』の運営元である松屋フーズホールディングスは今や総合外食企業となった一方、吉野家HDは牛丼とうどんの2本に依存している傾向があります。現在のように米と牛肉の価格が高騰して牛丼事業が苦しくなると、それをリカバリーする事業がなく、会社全体として業績が悪化してしまうリスクがあります。少し前から『吉野家』チェーン内で第2の柱として鶏の唐揚げに注力していますが、やはり『吉野家』というチェーンのほかに柱をつくっていく必要があるということでしょう。

 低価格競争が続く牛丼業界とは対照的に、今やラーメンは1000円超えが当たり前になっており、高い付加価値を付けることで比較的高価格帯の設定が可能になり、利幅を確保しやすいのも運営企業側としてはメリットです。また、全国では各地域で知名度の高い小規模なラーメン店・チェーンへのM&Aが活発化していることで、買収を進めやすい土壌が整ってきているといえます」(外食チェーン関係者)