特に20代〜30代前半は、キャリア形成の基礎を築く重要な時期であり、経験不足は将来の選択肢を大きく狭める。実際、経済産業省の2024年レポートでは20代で実務経験が不足した社員は、40代での転職成功率が平均より20%低い傾向にあるというデータがある。
放置をする上司のキャリアは守られるが、部下はそうではない。この構図を考えると、最も深刻な被害者は指導を受けられず、キャリアアップできなかった部下自身なのだ。
また、ホワイトハラスメントでチーム全体の生産性が落ちる。責任を引き受ける人材が育たず、イノベーションも起こらない。組織の競争力は静かに損なわれていく。
欧米諸国では、フィードバック文化が深く根付いている。たとえば米国では、上司と部下の1on1面談が定期的に実施され、建設的な批判も“部下へのリスペクト”と受け取られることが多く、部下の側も指摘に対して騒ぎ立てることは少ない傾向だ。
筆者は複数の米国系企業で働いた経験があるのでその肌感覚からいえるが、特に米国では上司が強力な人事権を持っており、部下は上司に逆らえず日本より簡単に解雇される。そのため、ホワイトハラスメントという現象は起こりづらい。
一方、日本は年功序列や空気を読む文化で上司も「波風を立てないこと」を望む。これは結果として、面倒な部下に対して「叱らない」「関わらない」職場を助長することになっている。
上司も困っている
「上司の責任逃れでは?」という反発も想定される。本来、上司は部下より多く給料をもらっているので、全員がプレーヤーとして働く以上にマネージャーを置く方がパフォーマンスが高まる構図を作る責任があるといえる。そういう意味で、ホワイトハラスメントは健全とは言えないだろう。
だが、昨今は部下のパワーがあまりに強くなりすぎた側面は否定できない。本来、部下は指示通り遂行する責任を負い、上司は仕事の結果の責任を取るものだ。