値上げ直後の客数減を乗り越えた「次の一手」

 同社によると、2023年3月の値上げは、コロナ禍からの回復期と重なり、外食需要の増加に支えられ、大きな影響はなかったという。しかし、2024年5月の値上げ直後は、それまで増加傾向にあった客数が明確に減少に転じた。「直近の月(3~5月の値上げ直前)に比べて、一日あたり5000人ぐらいの客数が減った」という状況は、値上げが顧客に与える影響の大きさを物語っている。

 この客数減少の流れを反転させたのが、同年8月末に導入した「楽天ポイント」であったという。日本最大級の会員数を誇るポイントプログラムの導入は、新たな顧客層の呼び込みに成功。ハイデイ日高は、特に女性客の取り込みに効果があったと分析している。

 さらに、2024年12月の3回目の値上げ後も、一時的に1日あたり1万5000人の客数が減少したものの、その後は回復傾向にある。「現状は24年12月比でマイナス3000人ほど。つまり1万2000人ほどのお客様が戻ってきている」という。同社は、その要因として、世の中の物価高による消費者の節約志向の高まりを挙げる。今年に入り、コンビニのおにぎりなど、中食(なかしょく)商品も値上がりする中で、相対的に日高屋の価格競争力が高まり、他の外食や中食からの顧客流入が起きているのではないかとみている。

顧客体験を変えたDXの力

 日高屋の値上げ戦略を語る上で欠かせないのが、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進だ。その中核を担うのが、現在350店舗に導入されているタッチパネル式のオーダーシステムである。

 タッチパネルの導入は、顧客と従業員の双方にメリットをもたらした。顧客は、店員を呼ぶことなく自分のタイミングで注文できるようになり、従来は「忙しそうだから」と遠慮しがちだった追加注文がしやすくなったことで客単価の上昇に直結。

「現状は350店舗に導入していますが、タッチパネル導入の店舗は、毎月15~30店舗近く増えていました。タッチパネルに変えると、客単価が上がるんです。客数も伸び、若干女性客も増えてきているような状況です」(ハイデイ日高)

 一部店舗では客単価が150円ほど上昇する効果が見られ、客層の拡大にも繋がった。事実、コロナ前は20%程度だった女性客の比率は、直近では35%まで上昇している。

 従業員側にとっては、オーダーを取る業務が削減され、ホールの人件費抑制に繋がった。この人件費の削減分が、高騰する原材料費を吸収するための一助となり、値上げ幅を抑制する企業努力を支えている。