「心臓がドキッとした」「胃がムカムカする」「お腹がグルグル鳴った」
そんな体の内部の感覚を私たちは日常的に感じとっています。
けれど、もしこの「自分の体の声」が聞こえなくなったら?
あるいは聞こえていても、それを信じられなくなったら?
独ドレスデン工科大学(TUD)の最新研究によると、幼少期に情緒的な虐待やネグレクト(育児放棄)を受けた人は「自分の体に対する信頼感」が低くなる傾向があることが明らかになりました。
自分の体への信頼感が薄まると、どんなデメリットが起こるのでしょうか?
研究の詳細は2025年7月7日付で科学雑誌『Nature Mental Health』に掲載されています。
目次
- 内受容感覚―「自分の体の声」を聞く感覚
- 幼少期の虐待が「体への信頼」を蝕む
内受容感覚―「自分の体の声」を聞く感覚
内受容感覚とは何か?
内受容感覚(Interoception)とは、心拍、呼吸、空腹、満腹、喉の渇き、胃腸の動き、筋肉の緊張、体温、痛みなど、身体の内部から発せられる信号を感じ取る能力のことです。
これは視覚や聴覚と同じく私たちに備わっている感覚のひとつで、私たちは無意識のうちにこれらの信号を使って、体の状態を把握しています。
たとえば、「なんとなく不安」「心臓が速くなっている」「お腹がすいてきた」といった気づきは、すべて内受容感覚によってもたらされます。
この感覚は単なる“体のセンサー”ではありません。
むしろ、感情の形成、ストレスへの対処、自己認識、そして直感的な意思決定に深く関与しているのです。

内受容感覚が弱まると、何が起きる?
もしこの感覚が鈍くなったり、歪んで伝わったりすると、さまざまな問題が生じます。
まず、体のニーズに気づけなくなります。
空腹に気づかず食事を忘れたり、過剰に食べすぎてしまったり、体調の変化に気づくのが遅れたりする可能性があります。