回復したホームズは、ようやく自分の知る限りの話を警察に語り始めます。
ホームズの話によれば、ブレイディが彼の家にジミーの腕を持って現れ、「大金を渡さないとこの件をばらす」と脅してきたとのことです。
彼の説明では、ブレイディがジミーを殺害し、バラバラにしてトランクに詰め、そのトランクをガンナマッタ湾に投棄したというのです。
これは1930年代のシドニー裏社会で「シドニー流のお見送り(Sydney send-off)」と呼ばれていた手口として知られます。
ホームズは「この話を裁判で証言する」と警察に約束しますが、新たな事件が起こります。
裁判当日の朝、ホームズはなんと胸に3発の銃弾を受け、車の中で死んだ状態で発見されたのです。
重要な証言を失ったことで、裁判は崩壊し、容疑のかかっていたブレイディも証拠不十分で釈放されました。
現在に至るまで、ジミー・スミス殺害事件の罪で起訴された者は一人もいません。

残る謎はなぜ水族館のサメの中からジミーの腕が出てきたのかということです。
有力な説では、ブレイディがホームズを脅すために切断した腕を持参し、それを捨てたのではないかとされています。
パニックになったホームズは、シドニーの海沿いの町へ車を走らせ、腕を海に投げ捨てた。その後、イタチサメがジミーの腕を丸呑みした――そんな流れが推測されています。
そして当時、金に困っていたのはジミーら裏社会の人間だけではありませんでした。
クージー水族館の経営者バート・ホブソン(Bert Hobson)も経営難に陥っており、客足を取り戻そうと必死だったのです。
彼は起死回生の一手として、ホブソンと息子はクージービーチへ船を出し、野生のイタチザメを捕獲して水族館に運び入れました。
目玉展示として客を呼び戻すための計画だったのです。
ところがなんの運命のいたずらか、彼らが捕獲し水族館に導き入れたイタチザメこそ、ジミー・スミスの腕を飲み込んでいたサメだったのです。