「人食い」ではない、もう一つの「悪魔の木」

 では、マッカール自身の探検はどうだったのか。彼は地元民から「悪魔の木」についての情報を集め、ついにキンコニー湖のほとりで「クマンガ」と呼ばれる恐ろしい木にたどり着く。

 地元では、「クマンガは人や動物を食べるわけではないが、猛毒を持ち、遠くからでも命を奪う。特に花の咲く時期は、毒を含んだ空気が風のない日にあたりに漂い、葉に止まった鳥は死んで落ち、木陰で休もうとした動物は即死する」と恐れられていた。マッカールは、この木の下に転がる動物の骸骨を見れば、人食いの木の伝説が生まれるのも無理はない、と考えた。

 このクマンガ(学名:Erythrophleum couminga)は、実際に極めて毒性の高い樹皮を持つことが科学的に知られている。そして、かつてマダガスカルでは、この木の毒を飲ませて罪人を裁く「神明裁判」という儀式に使われていたのだ。毒を飲んで吐き出せば無罪、死ねば有罪。この木の毒性は人々の間に強烈な印象を残し、花や雨水、燃やした煙さえも致命的だという迷信を生んだ。

伝説は終わらない:ロマンと真実のはざまで

 結局、マッカールは伝説の人食いの木そのものを見つけることはできなかった。しかし、彼の探求は、伝説の源泉となった可能性のある、マダガスカルの恐ろしい植物文化と、猛毒を持つ実在の「悪魔の木」の存在を明らかにした。1874年のデマ記事が、奇しくもマダガスカルに実在した毒木と儀式の伝統にどこか通じていたのは、歴史の皮肉だろうか。

 失われた写真の謎は、おそらくマッカールの記憶違いの中に答えがあるのだろう。だが、それでもなお、古い雑誌のページの中に、神話が現実であったことを証明する一枚の写真が眠っているかもしれない、と期待してしまう。人食いの木をめぐる探求は、これからも人々の心を掴んで離さないに違いない。

参考:AMERICAN STRANGENESS & The Missing Thunderbird Photo Mystery、ほか

文=青山蒼

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