ここではまず、「量子情報の世界でよく登場する二人の架空の人物、アリスとボブ」が登場します。

彼らは遠く離れた別々の場所にいて、それぞれが自分の手元に「量子ビット」と呼ばれる量子情報の基本単位を持っています。

この量子ビット同士が「量子もつれ」の状態にあり、アリスとボブの間には、この「もつれ」によって量子情報が強力につながっている状態になっているのです。

ただ両者の間にある量子的繋がりは「理想状態」ではなく消費すれば消えてしまう「現実的」なものとします。

ただし2人は追加の共有資源として「もつれ電池」を用意し、その内部に一定のもつれ(相関)量を蓄えた初期バッテリー状態を準備します。

次に両者は自分たちの持つ初期状態を目標とする別のもつれ状態へ変換することを試みました。

同時に、上記のもつれ電池から相関を「借りたり返したりする」ことが許されます。

量子もつれAを消費して無くしてしまうのではなく、別の量子もつれBに変換し、その量子もつれBをもつれ電池に返し、そして2人の元に再び新たな量子もつれAが届けられるというサイクルを行うわけです。

すると非常に興味深い結果が得られました。

もつれの変換後、バッテリーには当初と同じかそれ以上のもつれが蓄えられていたのです。

さらに重要なのはある状態Aから別の状態Bへの変換を行ったあと、同じ手順を逆向き(BからAへ)に適用してもらえば、一切のロスなく元の状態に戻せることがわかりました。

実際、研究チームは数学的に状態Aが状態Bへ変換可能であり、かつ逆変換も可能であるための必要十分条件が「状態Aの量子もつれの大きさE(A)が状態Bの量子もつれの大きさE(B)以上であること「(E(A) ≧E(B」)」を示しました。

Eは量子もつれの「大きさ」を測る指標のようなもので、古典熱力学におけるエントロピーに相当するものです。

ここで注目すべきなのは量子もつれの大きさを示す(E(a) ≧E(b)の間にイコールがあることです。