研究者たちが示したのは、「変換前のもつれ量が変換後のもつれ量よりも多い(または同じ)ならば、変換は必ず可能であり、逆方向の変換も必ず可能である」という非常に明快な条件でした。
この結果は「量子もつれは、操作の過程で量子もつれの総量が減少しない」という、いわば量子世界の「第二法則」という新たな普遍的法則があることを示しています。
先にも述べたように通常の熱力学第二法則ではエントロピー増大の法則であり、「エネルギーの総量」は変化しなくても、エネルギーの「質」は常に劣化し、使いやすい形から使いにくい形(乱雑な状態)へ一方通行的に変化してしまうことを指し示します。
同様にこれまで量子もつれの操作は「一度変換したら元に戻らない」不可逆的なプロセスとして、熱力学第二法則のもつ性質(エントロピーの不可逆な増加)とよく似た挙動をしていました。
しかし今回の研究では「もつれ電池」を導入することで、このような従来の不可逆性が完全に克服され、「量子もつれが決して失われない完全可逆な変換」が可能であることが示されました。
つまり、「もつれ電池」という新たな枠組みを用いると、量子もつれの変換が理想的でエントロピーが増加しない、完全に可逆なサイクルを構築できるという意味で、熱力学の第二法則に対応するような「量子版第二法則」が成り立つわけです。
言い換えれば、量子もつれはこれまで第二法則のような不可逆な性質を持つと考えられていましたが、今回のもつれ電池の導入によって、その不可逆性が覆され、量子版の理想的「第二法則的プロセス」を実現できたという意味になります。
また「もつれ電池」という概念が正常に稼働した点も、非常に重要です。
もつれ電池がもし実現できれば、法則の発見という理論の世界を超えて工学的に非常に価値があるものになり得るからです。
さらに研究チームは、この量子もつれ変換を複数セットの量子状態に同時に適用する場合の効率(つまり、目的の状態がどれくらい得られるかの比率)についても理論的に検討しました。