たとえるなら、完璧に整えられた髪が一度雨や風で乱れてしまうと、自分の手で整えても完全には元の状態には戻らないような状況です。

特に極端な例として知られる「バウンドもつれ」という量子状態では、量子もつれを作り出すためにエネルギーや資源を消費しているにもかかわらず、その後は役立つ量子もつれを一切取り出すことができません。

これはまるで、お金をかけて複雑な機械を組み立てたのに、組み立て終わった途端にもうその機械を使って有益な仕事ができないという状況に似ています。

つまり、現実的な量子状態のもつれは「一度使ったら元に戻せない使い捨ての資源」のようにしか使えないというのが、これまでの量子情報科学の常識だったのです。

こうした状況に対して、科学者たちは次のようなアイデアを考えました。

それは「もつれ電池(エンタングルメントバッテリー)」と呼ばれる特別な量子システムを用意して、もつれを前もって蓄えておき、不足したときに貸し出し、操作が終わった後に再び同じ量を戻してもらうという仕組みです。

化学反応で、触媒が反応を促進しながら自分自身は変化しないのと同じように、このもつれ電池は自らの量子もつれを減らすことなく、他の量子系のもつれを自由に変換する助けとなります。

では実際に、このような「もつれ電池」を用いて、本当に量子もつれを自由自在に変換し、完全に元の状態に戻せるのでしょうか?

そして、理論的に示されたこの新たな可能性を、研究者たちはどのようにして証明したのでしょうか?

もつれ電池が動くことで量子力学版の熱力学第二法則が確認された

もつれ電池が動くことで量子力学版の熱力学第二法則が確認された
もつれ電池が動くことで量子力学版の熱力学第二法則が確認された / Credit:Canva

「もつれ電池」を用いることで、本当に量子もつれを自由自在に元通りに戻すことができるのでしょうか?

また、それを理論的にどのようにして証明したのでしょうか?

この疑問に答えるために、研究チームは次のような理論的な思考実験を行いました。