一方で、通常の細胞が持っているはずの機能が大幅に失われていました。

特に、生きていくためのエネルギーを作り出す「代謝」に関する遺伝子がほとんど見当たりませんでした。

通常、生き物は糖や脂肪などを分解してエネルギーを得ることで自力で生存しますが、この古細菌は自分でエネルギーを生み出す能力をほぼ完全に失っていたのです。

このことから、この微生物はエネルギーを宿主から奪わなければ増殖どころか生きることすら難しいことが推測されます。

研究チームは、スクナアルカエウムがプランクトン(渦鞭毛藻)の細胞内や表面に寄生し、その栄養やエネルギーを奪って生きていると考えています。

さらに特異なのは、宿主に対する貢献も見当たらない点です。

他の共生微生物では、自力では生きられない代わりに宿主に必須アミノ酸やビタミンなど何らかの有益な物質を提供する例が知られています。

こうした「贈り物」によって、少なくとも宿主への負担を減らし共生関係を成り立たせていると考えられます。

しかしスクナアルカエウム・ミラビレの場合、現時点の解析ではそうした有用物質を作る能力がほとんど見当たらず、宿主への貢献はないと推定されています。

以上の特徴から、スクナアルカエウム・ミラビレは細胞という形こそ持つものの、生態はウイルスに限りなく近いといえます。

まさに細胞としての姿を保ちながら、ウイルス的な宿主依存の特異な生存戦略をとる存在なのです。

このような微生物の存在は、生物とウイルスの境界を考える上で重要な研究対象となっています。

では、この微生物は系統的にはどこに位置付けられるのでしょうか?

遺伝子配列の系統解析によると、スクナアルカエウム・ミラビレは確かに古細菌ドメイン(細菌とは異なる生物の大グループ)に属しますが、既知のどの門(フィラム)にも属さない系統的に深い分岐に位置することが明らかになりました 。

いくつかの解析モデルではメタン生成古細菌のグループ(メタノバクテリア)や、ナノアルカエウムが属するDPANN系統(ナノブデラティ)に近縁だという結果も出ましたが、モデルによって推定が異なり、統計的な裏付けも弱い状況です。