一方、下位クラブでは、J2やJ3への降格リスクを抱えるチームや、財政難のクラブが“草刈り場”とばかりに、主力選手の売却を余儀なくされるケースが少なくない。残留争いの中で戦力を維持しつつ、財政的な理由や選手のキャリアアップのために移籍を容認する場合が多い。

シーズン途中での上位クラブによる下位クラブからの選手補強は、移籍金を支払ってでも優勝(あるいは昇格)に近付こうとするフロントの本気度の表れだが、移籍金と引き換えに主力を失ったクラブの監督にとっては頭が痛いだろう。多くの場合、この時期に移籍する選手は前所属チームで替えの利かない選手であることがほとんどだ。


ヴィッセル神戸 写真:Getty Images

選手側もキャリアアップを意識

また、現代のサッカー選手は、自身のキャリアアップを強く意識している。タイトル獲得のチャンスやACL、さらには海外移籍へのステップアップの可能性を提供できる上位クラブへの移籍は、特に若手選手にとって日本代表選出や欧州クラブへの挑戦に繋がる可能性が高く、魅力的な選択肢となる。クラブ間の力関係以上に、選手自身のキャリア志向が移籍を後押しするのだ。

また、Jリーグでは、23歳以下の若手選手を対象とした移籍期間を問わない「育成型期限付き移籍」制度が導入され、下位リーグへの移籍を通じて出場機会を増やす仕組みがある。この制度は若手の成長を促す一方で、上位クラブが下位クラブで活躍した選手を“回収”する形で補強するケースを生んでいる。

例えば、清水エスパルスからJ2藤枝MYFCに育成型期限付き移籍していたFW千葉寛汰は、FW陣にケガ人が続出したことで急きょ呼び戻され、6月21日の名古屋グランパス戦(豊田スタジアム/1-1)で後半35分に途中出場すると、8分後の後半43分に勝ち点1を呼び込む貴重な同点ヘッド弾を決め、サポーターに成長した姿を披露した。