石炭火力で発電事業をしようと思ったら、いったいどれだけの制度が待ち構えているだろうか?

まず直接規制として、省エネ法の「効率ベンチマーク」で、効率の低い発電設備は早期廃止やリプレースを迫られる。さらに、電気事業法にもとづく環境影響評価では、「環境大臣意見」によって、石炭火力の新設が事実上禁止されるようになった。2018年以降、石炭火力発電の新設計画5件は全て撤回されるに至っている(環境大臣意見の例として:「秋田港火力発電所(仮称)建設計画に係る環境影響評価準備書に対する環境大臣意見の提出について」)。

これに加えて排出量取引制度が導入されることになっているのだが、これで発生するコストは、すでに存在する石油石炭税に上乗せされることになる。この石油石炭税には「温暖化対策上乗せ分」もすでにある。つまり石炭には、1トンあたりで、本則税率700円に温暖化対策上乗せ分が670円で、合計1,370円が課されている。

再エネの導入に関係する制度も多岐にわたる。直接規制であるエネルギー供給構造高度化法では、小売り電気事業者は2030年までに非化石電力の割合を44%にする義務があり、これは証書を買ってでも達成しなければならない。

省エネ法には、変動性再エネに対応するための需要調整が盛り込まれた。容量市場は、再エネの変動に対応するために設けられた。そして何より、再エネ事業はFITやFIPによって補助を受けて推進されている。GX移行債を用いた基金では低利ローンの貸付がある。自治体も国とは別に太陽光パネルの義務付けや排出量取引制度などを儲けている。

表2 日本の電力部門における温暖化対策制度(主なもの)

手段類型 制度 対象 義務・税率等 開始・最新改正 メモ

直接規制 エネルギー供給構造高度化法 年販電5億 kWh超の小売電気事業者 2030 非化石44%義務(未達→罰則) 2009制定/2022改正 非化石価値証書購入によるコスト増。

省エネ法:火力発電効率ベンチマーク 主要火力発電所(出力20 万 kW以上) LNG複合 ≥52%HHV、石炭超々臨界 ≥44%HHVなど。未達の場合は改善計画提出・公表 2010制度化/2023見直し 火力発電設備の早期廃止・リプレース圧力。

省エネ法(DR・需要側調整義) 一般送配電・小売 調整力専用契約、DR計画 2023改正 変動再エネへの対応コスト

電気事業法(設備認可時環境審査) 発電事業者 設置許可時に環境影響評価(EIA)・BAT審査を審合。 常時 新規純石炭火力の許可は2018年以降事実上禁止

市場的手段(価格付け) GX‑ETS(排出量取引) 10万 t‑CO₂超排出発電所 2026〜義務キャップ 2023施行 排出権買入れコスト

非化石価値取引市場 小売電気事業者 証書調達で非化石比率充足 2018市場開始 証書調達コスト

容量・調整力市場 発電・需要家 調整力を入札で価格化 2021本格 再エネ変動対応費を反映。

税・賦課金 石油石炭税(温対税含む) 化石燃料輸入者 289円/t‑CO₂相当上乗せ 2012温対税導入 税負担

化石燃料賦課金(GX賦課金) 化石燃料輸入者 2028開始、段階増税 2025法改正 賦課金負担

再エネ賦課金(FIT/FIP) 小売電気事業者 3.98円/kWh(25年度) 2012〜 総額で年2.7 兆円。

電源開発促進税 小売転嫁 0.375円/kWh 1974〜 原子力・立地関連財源。

補助金・投融資 FIT/FIP支払(再エネ特措法) 再エネ発電 固定価格/プレミアム 2012/22 再エネへの補助

省エネ法関連補助:エネルギー使用合理化等事業者支援(NEDO等) 発電・送配電事業者 高効率火力への更新、発電所熱効率向上設備に1/3〜1/2補助 毎年度予算 火力発電省エネへの補助

グリーンイノベーション基金 電力・メーカー 水素・アンモニア火力、CCS実証 2021〜 中長期の脱炭素技術投資。

送配電網・蓄電池補助 一般送配電 系統増強・蓄電池1/2補助 補正予算ベース 再エネ大量導入の系統対応を補助

GX移行債基金 電力・再エネ・送配電事業 国が最大20兆円規模で債券発行し、水素・アンモニア火力、CCS、系統増強、再エネ低利融資に充当。

設備費の1/3〜1/2補助、長期(20年)0.4〜0.7%融資

情報公開・自主協定 経団連カーボンニュートラル行動計画(電力) 発電事業者 2030▲46%自主目標 2021改編

排出量報告・公表(温対法) 発電所 年度排出量報告 2006〜

再エネに関しては、電力を購入する一般の事業者の方にも制度がある。再エネ賦課金を支払わねばならないし、省エネ法では、再エネを導入する計画を政府に提出して、進捗状況を定期的なチェックを受けることが義務づけられている。