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GX推進法の改正案がこの5月に可決され、排出量取引制度の法制化が進んでいる。教科書的には、「市場的手段」によって価格を付けるのが、もっとも経済効率が良いことになっている。

だが、日本の場合、排出量取引制度は、既存の制度に、さらに追加されるだけで、全体としての温暖化対策制度はますます複雑怪奇になる。まるで、増築を重ねたオンボロ温泉旅館のようである、と言ったら、AIが絵を描いてくれた。

日本の温暖化対策制度の概要を書くと、表1のようになる。直接規制があり、補助金があり、税があり、自主的取り組みがあり、自治体には、政府と別の制度がある。

事業者は経産省と環境省と自治体に似たり寄ったりの報告書を毎年書かねばならない。そうかと思えば、温暖化対策に逆向きの補助金として電気とガソリン等への累積12兆円の補助金などというのもある。足下ではこんなばらまきをやっておきつつ、今後は「市場的手段」として、GX-ETS(排出量取引制度)と化石燃料課徴金が追加される予定になっている。

もしもこれが、例えば「化石燃料課徴金」だけの1本にして、他の制度はすべて廃止します、というのであれば、まだ納得感はある。だがそうではない。これら沢山ある制度には、それぞれなわばり、権限、予算が発生し、役人は自ら制度を簡素化する動機も能力も欠いているため、制度は年々肥大化し、複雑化する一方だ。

税は「簡素・中立・公平」であるべきだという原則があることはよく知られている。この原則は、制度先般にとっても重要なことだ。

表1 日本の温暖化対策制度(主なもの)

手段類型 主要制度・法令(施行/開始) 主体・対象 義務・税率等

直接規制 省エネ法(1979→改正継続) 工場・事業所/輸送/建築物/家電・自動車 エネルギー管理・燃費/省エネ基準・DR等

エネルギー供給構造高度化法(2009) 電力小売(5億kWh超) 2030 非化石44%義務+罰則

補助・賦課型 再エネ特措法(FITとFIP)(2012→FIP22) 再エネ発電事業者 固定価格/プレミアム買取(賦課金で回収)

燃料油・電力・ガス補助(激変緩和事業)(2022‑25) 需要家(価格転嫁) 元売・小売に定額補助 累計12兆円

市場的手段 GX推進法:GX‑ETS(自発23→義務26) 直接排出10万t超事業者 キャップ&オークション・排出権取引

化石燃料賦課金(2028予定) 化石燃料輸入者等 段階的 t‑CO₂課金(GX債償還財源)

税 石油石炭税(温対税含む)(1978/2012増税) 化石燃料全般 289 円/t‑CO₂相当

揮発油税・軽油引取税など(1940s‑) 自動車燃料 53.8 円/ℓ(暫定税率込み)等

自主協定 経団連低炭素社会実行計画(1997‑) 約35業種 自主削減目標・第三者評価

横断法 地球温暖化対策推進法(1998) 国・自治体・企業 排出量報告・計画策定・情報公開

自治体 東京都キャップ&トレード(2010‑)、東京都・京都府等の太陽光義務ほか 大規模事業所/新築住宅・非住宅 独自キャップ、PV設置義務、EV充電義務

さて、以上は国全体の話であったが、部門別に見ても、制度は複雑怪奇である。表2は、電力部門についてまとめたものだ。