5. 火星探査機を消滅させた「単位のすれ違い」
1999年、NASAの火星探査機「マーズ・クライメイト・オービター」は、火星の大気圏に突入後、忽然と姿を消した。1億2500万ドル(約180億円)を投じたミッションは、あっけなく失敗に終わった。その原因は、あまりに初歩的で、信じがたいミスだった。
単位の計算ミスである。
探査機の開発を担当したロッキード・マーティン社は、推力のデータを「ポンド(ヤード・ポンド法)」で計算していた。一方、NASAの航行チームは、そのデータが「ニュートン(メートル法)」で計算されていると思い込んでいた。この致命的な“すれ違い”に誰も気づかぬまま、探査機は予定より遥かに低い高度で火星に接近し、大気との摩擦で燃え尽きてしまったのだ。
「ポンド」と「ニュートン」。このあまりに単純な単位の混同が、巨額の予算と科学者たちの長年の努力を、一瞬にして火星の赤い砂に変えてしまったのである。

(画像=Image: NASA/JPL/Corby Waste, Public Domain –Source)
歴史は、英雄や大事件だけで作られるのではない。時に、たった一人の不注意、たった一行の見落としが、神の言葉をねじ曲げ、大統領の首をすげ替え、約束さえも反故にしてしまう。これらの物語は、我々が日々操る「言葉」というものの、計り知れない力と、そして底知れない恐ろしさを改めて教えてくれるようだ。あなたのその一文字は、果たして大丈夫だろうか。
参考:Listverse、ほか
文=青山蒼
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