しかし、この就学先の選択の過程で保護者が直面するのは、社会に根強く残る「心の壁」です。家族や親戚から「地域の学校に入れるべきだ」「特別支援学校に入れるなんて」という声を聞き、傷つくケースもあります。

こうしたケースについて、大澤さんは著書で次のようにアドバイスしています。

「何が正解かではなく、よく考えて選択したことが正解だったと思えるようにしていく気持ちでいいと思います。違和感や、子どもにとって望ましいと思えない場合は、臆することなく環境を変えるのも一つの道です」

そして、

「学校選択は、親と子どもにとってかなり重要な決断。渦中にいる方は、悩むことでしょう。子どものためにあなたが出した結論は、尊重されるべきものです」

と述べています。

社会の「壁」を取り除くために

厚生労働省が公表した「令和6年障害者雇用状況」によると、2024年6月1日時点の民間企業における雇用障害者数は約67万7千人で、21年連続で過去最高を更新しました。雇用障害者数の内訳は、身体障害者が約36万9千人、知的障害者が約15万8千人、精神障害者が約15万1千人と、いずれも前年より増加しています。

この数字は希望を示す一方で、学校で適切な教育を受けた子どもたちが、卒業後に社会で活躍できる場がまだ限られていることも示しています。

心身に障害を持つ人が社会参加を果たすためには、さまざまな「壁」があります。物理的な壁や制度上の壁は、政治や行政の努力で取り除くことができます。学校のバリアフリー化や、事業者による合理的配慮の提供などは、その具体例です。

しかし、偏見や差別といった「心の壁」を取り除くためには、より長い時間と社会全体の意識改革が必要です。障害を持つ人が社会の一員として等しく尊重される「ノーマライゼーション」の実現には、教育現場から始まる地道な取り組みが欠かせません。

特別支援教育の選択に悩む多くの保護者は、実はこの大きな社会変革の一端を担っています。どのような選択をしても葛藤はあるでしょう。しかし、よく考えて選択したことが正解だったと思えるようにしていく、その積み重ねが、すべての子どもが尊重される社会への道筋となるのです。