さらに脳機能の活動をリアルタイムで計測するfMRIによって、継続群は両側の小脳において活発な活動を維持していることが分かりました。

小脳や被殻は、加齢による影響を受けやすい部位とされており、そこに「維持されている活動」が見られたのは、驚くべき発見です。

楽器が脳に効く理由、でも続けなければ意味がない?

今回の研究が明らかにしたのは、「新しいことを始めると脳が活性化する」という一般的な知識の、さらに一歩先の段階です。

効果があるのは“始めただけ”ではなく、“続けること”だったのです。

では、なぜ楽器練習がそれほどまでに脳に好影響を及ぼすのでしょうか?

楽器演奏は、単に手を動かす運動ではありません。

「音を聴く」「リズムをとる」「指を動かす」「楽譜を読む」など、複数の認知処理が同時に必要な活動です。

これにより脳全体が協調して働く必要があり、とくに「情報を一時的に記憶して処理するワーキングメモリ」が鍛えられるのです。

さらに今回の研究では、楽器練習が小脳や大脳基底核に働きかけることが確認されました。

これらは運動制御だけでなく、学習や習慣形成にも関与する部位として知られています。

高齢期に楽器を始めても“遅くない”どころか、むしろ始める価値があることは、この研究から十分に示されたといえるでしょう。

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Credit: canva

「もう歳だから新しいことは無理」

そんな言葉を、誰もが一度は耳にしたことがあるかもしれません。

しかし、今回の研究はそれに真っ向から反論しています。

平均73歳から始めた楽器練習が、脳の衰えを4年にわたり抑制していたのです。

しかもこのアプローチは、運動が制限される高齢者にも可能で、生活の質(QOL)を高める実践的な方法としても注目されます。

鍵盤ハーモニカやミニピアノといった手軽な楽器でも十分効果があり、何より「楽しみながら続けられる」点も魅力です。

脳を若く保つ秘訣は、特別な薬やトレーニングではないのかもしれません。