ラジオとIVSに共通するビジネスの本質
** ――イベント実務でIVSの運営を牽引してきて、仕事で根底に通じるものはありますか。 **
** 萩原氏 ** TBS時代の仕事は基本的にはマーケティングや、新規事業の立ち上げでした。両方とも「誰に対して、何を、どのように与えて、何を生み出したか」ということを明確にし、具現化することです。IVSが、誰にどんな体験を与えるのかというところを突き詰めていくと、自ずと私たちの立ち位置と私たちの強みと弱みを追求していかなければ、戦略が練れません。
例えば、ラジオはオールドメディアですが、驚くほど強いエンゲージを産み出す「コミュニティーメディア」です。大手放送局に勤務し、長くこのメディアに携わっていながら、一方ではスタートアップの世界に片足を突っ込み、ライフワークになっていた。しかしこの「深いエンゲージメントを発生させる」という点では、ラジオの経験がIVSには活きていると感じています。特に体験設計やコミュニティー作りという面です。
どうスタートアップや投資家がコミュニケーションをし、深いエンゲージメントを産み出すのか。深いエンゲージメントをどう生かしてマネタイズしていくかという点で、とても共通していると思います。
例えばポイントは「集う」場所とタイミングの設計です。ステージの横には必ずBARやコミュニケーションをするスペースを用意する。セッションに参加する人はある意味「#(ハッシュタグ)」で繋がっている人達なので登壇者と交流したいし、参加者同士でも繋がる絶好の機会。そこを細かく作っていく。ラジオも同じで本編よりもそのあとの「仲間との会話」が大切なエンゲージを産み出すのです。同じ方向を向いていると少しでも実感したときにエンゲージは高まります。
これまでやってきたイベント実務や、メディア運営、マーケティング。そして新規事業経験といった複合的な経験は少しIVSの拡大に役に立っている気がしています。
** ――萩原さん自身はいわゆる大手の有名企業にずっと所属されていたわけですが、その萩原さんからベンチャーやスタートアップはどのように見えたのでしょうか。 **
** 萩原氏 ** 最初はイベントのお手伝いという気持ちでしたが、関わればかかるほどスタートアップの面白さが身に染みてきました。事務局で一緒にやっていたボランティアや後輩たちが起業家・事業家として成長していく姿を真横で見ていたからです。
彼らは事業を成長させて何十億円も扱うような会社を作っていくんですね。僕には単なる後輩だったわけですが、そんな年齢も違う彼らが、社会に新しい価値を提供し続けるメンバーのど真ん中に身を置いていたわけです。
一方で本業のラジオのほうは、遅々として進まない伝統産業みたいなところです。70年の歴史がある業界ですからね。このギャップがものすごいんです。
私はこの10年間、スタートアップと伝統産業のどちらも見てきましたが、そういう人間は実は珍しいのではないかと思っています。
** ――ご自身でも起業されたと聞きました。 **
** 萩原氏 ** はい、会社を辞めて2社立ち上げたので、IVSで一緒にやっていた若い彼らと同じ土俵に立っています。実際に資金がショートしそうになったこともあるので、資金繰りの大変さを今味わっています。だから頑張らないといけないし、私自身も会社をやりながら、ようやく憧れのスタート地点に立ったばっかりなのです。苦しくも楽しい日々を過ごしています。