起業家から支援者へ──常盤氏の原点と使命感

 常盤氏のキャリアは、中央大学在学中の起業から始まった。その後、大手コンサルティングファームや監査法人での経験を経て、現在はEY新日本に所属し、IPO支援業務を中心に、上場企業からスタートアップまで幅広い企業の成長支援に従事している。所属する企業成長サポートセンターでは、EYにおけるIPO統括部門の一員として、多くのスタートアップのIPOを支援。また、EY Japanのスタートアップ支援専門チーム「EY Startup Innovation」のコアメンバーとして、大型資金調達の支援や事業戦略の策定支援なども手がけている。

「起業家としてやってみて分かったのは、私は“支援する側”のほうが性に合っているということでした」。その言葉通り、彼の情熱は、限られたリソースと高い不確実性の中で挑戦するスタートアップの“成長”に寄り添うことに注がれている。

 その延長線上に立ち上げたのが、「EY Startup Lab」。EY内での若手メンバーと共に、スタートアップ支援の知見を共有・体系化し、日本のエコシステムの底上げを図る取り組みだ。

IVSとの出会いがもたらした気づきと構想

  常盤氏がIVSと初めて関わったのは、2022年の那覇開催だった。当初はスポンサーとして参加する予定だったが、「せっかくなら企画側で」という誘いが転機となった。以来、IVSには企画ボランティアとして深く関与してきた常盤氏だが、その中で明確に感じたのが「グロース領域」の不足だった。

「今の日本にはゼロイチの支援は十分にある。一方で、10から100、100から1000へと、成長の壁に悩む経営者たちが、次にどう舵を切ればいいのかを考えられる場が、圧倒的に足りていないと感じています。この論点は多くのスタートアップが悩んでいるので、改善できる方法は何かを探っていました」

 こうした想いが、今回の「IVS Growth」という新しいゾーンを生む原動力となった。

グロースの“再定義”──視座を上げ、成長の本質に向き合う

「グロースという言葉が独り歩きしている」ーーこの指摘こそが、今回の「IVS Growth」が掲げる最大のテーマだ。

 成長を単に売上拡大や資金調達といった定型的な理解にとどめず、本質的な「なぜ成長をしていくのか」「どこへ向かうべきか」「なぜ株式公開をするのか」という問いを立て直す。常盤氏がこだわったのは、まさに“視座”の再設計だった。

 そのため、セッション設計においても徹底して「考え方」にフォーカス。ハウツーではなく、再現性のある思考プロセスを提示することで、参加者が自らの経営に応用できるようにしたと言う。例えば、2日目の「非公開化という選択肢:PEファンドの活用」というトークセッションでは、ユーザベースやカオナビといった上場後にPEファンドによるTOB(株式公開買付け)という選択をした企業を招き、成長志向を保ちながらも、なぜこの判断に踏み切ったのか。その判断の裏には、どのような経営課題や戦略的意図があったのか、本質的な関係性を問い直す。