耳石は魚の年輪のようなもので、年ごとの成長の記録が刻まれています。
分析の結果、タラの成長速度の傾向自体がガラリと変わっていることが判明しました。
1996年時点では成魚になるまでに比較的長い年月をかけて大きく成長していたのに対し、2019年の個体は早く成熟する代わりに、大きくならない傾向が見られたのです。
つまり、タラは「小さくても早く子どもを産める体質」に進化していたのです。
DNAにも刻まれていた「乱獲の爪あと」
さらに驚くべきことに、こうした体の変化はただの“環境の影響”ではなく、タラのゲノム(DNA)にまで変化が起きていたことが突き止められました。
チームは、過去25年間に捕獲されたタラのDNAを網羅的に解析。
その結果、成長に関わる遺伝子の一部に、明らかな「方向性のある変化(進化)」が起きていたのです。
具体的には、タラの成長に関与すると考えられる336個の遺伝子領域で、ある遺伝子型が他よりも多く残る傾向が見られました。
これはつまり、「大きくゆっくり育つ」タラは漁で早々に捕まってしまい、「小さくても早く成熟する」個体だけが生き延びて子孫を残す――という自然選択ならぬ“人間選択”が起きていたことを意味します。

これまで進化は数千年、数万年という時間スケールで起きると考えられてきましたが、今回の研究は、たった四半世紀ほどの乱獲が、野生魚の遺伝子を根本から変えてしまったことを示す衝撃的な証拠です。
しかもこの変化は、単に小型化するだけでなく、成長に必要な代謝やホルモン、卵の浮力調節といった機能に関わる遺伝子にも影響を及ぼしていました。
環境の変化(たとえば水温上昇や酸素不足)ももちろん影響していますが、それだけではここまでの変化は説明できないと研究者は言います。