そんな中で打ち出された“苦肉の策”が、「動物による月周回ミッション」でした。

ソ連は1968年9月14日、「ゾンド5号」と呼ばれる宇宙船を打ち上げ、2匹のリクガメを月周回の旅へと送り出したのです。

(ゾンド5号にはリクガメの他に、ショウジョウバエ、ミールワーム、植物の種子なども乗せられていましたが、実験の主軸となるのは脊椎動物のカメでした)

画像
ゾンド5号に搭乗したリクガメ/ Credit: NASA – 50 Years Ago: On the Way to the Moon(2025)

彼らは中央アジアの乾燥した草原地帯に生息する、丈夫で飢えにも強い生物。

加えて、動きが遅くて管理がしやすいという利点もありました。

出発に先立って、カメたちは9月2日から宇宙船に搭載され、出発まで一切の食料を与えられずに過ごしました。

科学者たちは、食物の消化活動が実験結果に影響を与えることを懸念していたのです。

月を回った「甲羅の宇宙飛行士」たち

ゾンド5号の飛行はおおむね順調に進みました。

4日間かけて月を周回し、宇宙を飛ぶ初の“地球生物”としての偉業を達成します。

その後ゾンド5号は地球へ向けて帰還を開始しましたが、誘導プログラムの不具合により予定していたカザフスタンではなく、インド洋へと着水してしまいます。

そこへ偶然近くを航行していたアメリカの艦船が着水を目撃し、回収前にゾンド5号の写真撮影に成功。

その結果はアメリカを大きく安心させました。

というのも、ソ連の宇宙船技術がアメリカ側の現状に比べて、かなり劣っていたことがわかったからです。

画像
地球に帰還したゾンド5号/ Credit: NASA – 50 Years Ago: On the Way to the Moon(2025)

一方で、月周回に成功したカメたちは9月21日に無事回収されました。

出発前に比べて体重がわずかに減っていたものの、健康状態は良好。