「重度障害児」ではなく「生成AI」なら投資されるという現実
社会課題解決型のスタートアップが、資金調達に苦戦する現実も彼女は直視している。
「シードVCの多くは“市場の大きさ”を見ます。生成AIをやります、と言えば話を聞いてもらえる。でも“重度障害児の支援をやります”と言った瞬間、『それはVCじゃないね』と門前払いになる」
彼女は、この厳しい現実を隠さない。市場の成長性を基準にしている限り、たとえ社会にとって不可欠な領域であっても、ビジネスになりづらい分野は置き去りにされてしまう。だからこそtalikiファンドでは、従来の投資基準にとらわれず、社会課題の現場に深く入り込み、スケーラビリティと本質的なインパクトを兼ね備えた事業を地道に見極め、投資を続けている。
京都発・社会課題解決コミュニティのハブへ

中村氏がIVSと出会ったのは、創業間もない2017年。金沢で開催されたIVSにボランティアとして参加し、そこでエンジェル投資家と出会い、その後の資金調達に成功するという、まさに人生を変える経験をした。2023年、IVSが京都で初開催されるタイミングで、「ネクスト」という新しい参加型ゾーンの立ち上げを打診されると、彼女は「ソーシャルステージ」の設計を提案した。
「社会課題解決に挑む研究者や起業家たちの熱を、そのままステージで感じられる場所にしたかった。難しいテーマだけど、かっこいい人たちが本気で取り組んでいるんだって、元気をもらえる場にしたかった」
彼女がディレクターとして設計したセッションは、表面的な社会貢献トークではない。儲け話に偏ることなく、事業としての困難さや制度の限界にも正面から向き合う。だが、その中にこそ“真の希望”があるという。
変化するテーマ、重なる課題、そして「レジスタンス」
IVSソーシャルは、毎年そのコンセプトをアップデートしている。1年目は“入り口”として多様な人々を招き、2年目は専門性を高め、3年目となる今回は「レジスタンス」がテーマだ。
「トランプ再選のような世界の潮流に対して、私たちが何を主張すべきか。資本主義や既得権益に対するカウンターの言葉を、ちゃんと語ろうという意図です」
難解なテーマにもかかわらず、ソーシャルステージには毎年、多くの観客が詰めかける。「社会課題は“端っこ”ではない。むしろ、スタートアップのど真ん中にある」ことを、数々のセッションが証明している。