32か国あるNATO加盟国の中で、アジア太平洋に関心を持つ余裕があるのは、海外領土を持つ旧宗主国系の諸国など一握りだけだ。それらの諸国ですら、日本がウクライナ支援をしている程度にまで、アジアのために何かをしてくれているのかは、怪しい。

このNATO首脳会議では、加盟国の防衛費をGDPの5%までに引き上げることが決められた。トランプ大統領は上機嫌だったが、この問題を、安全保障の問題というよりは、アメリカの防衛産業の利益として捉えているからだろう。ほとんど中東諸国にアメリカへの投資を呼びかけるセミナーへの出席と同じ感覚であると思われる。アメリカの欧州の安全保障へのさらなる関与が議論されたわけではなく、ただ欧州諸国が大量の米国産の兵器を購入する方針が決まった。(もちろん理論的には欧州産の武器を購入してもいいし、取り決めでは増額分が武器購入にだけあてられるわけではないことにもなっているが、いずれにせよ米国の防衛産業にとっての特需であることには疑いの余地がない。)

日本は、岸田首相の時代に、防衛費を2倍にして、GDPの2%にまで引き上げる方針が決められた。現在、その目標に向かって、防衛費を増額中である。しかしアメリカからは、早くもGDPの3.5%にせよという要求が聞こえてきている。それを約束したら、その後は当然、NATOと同水準の5%だろう。アメリカは、儲け話の感覚で言ってきているわけなので、止まるところを知らない。

日本の軍事評論家・国際政治学者の間では、軍拡は善である、という風潮が強いようだ。ロシアのウクライナ全面侵攻以降に、「ウクライナ応援団」とも評される集団が、特定ファン層として生まれてきて、これを後押ししている世相もあるようだ。だがこれらの方々が、日本の財政問題とからめて、軍拡路線を説明するのを、見たことがない。軍事費の増額だけを、聖域として特別視して認めていくような余裕が、今の日本にあるのか、私は非常に疑問に思っている。特に、日本の場合、国内の防衛産業が非常に弱く、ドローンですら、イスラエルから購入するような有様だ。軍事費の増額による、経済成長効果への期待がない。現在進行中の防衛費増額を通じて、日本の防衛産業を強化する、という話も、まったく聞かない。対GDPでの防衛費の増額だけが、美談として、独り歩きしているような状況だ。