怪物の正体 – 科学のメスが入れた伝説の“中身”
探求が進むにつれ、科学者たちは伝説の正体を合理的に説明しようと試みてきた。まず、ミミズのような本物の「ワーム(環形動物)」が、灼熱のゴビ砂漠で生き延びるのは不可能だと考えられている。また、一部で候補とされた地中棲の爬虫類はモンゴルには生息していない。
そこで最も有力な仮説として浮上したのが、「タタールサンドボア」というヘビの誤認説だ。

(画像=タタールサンドボア ByVincent Malloy–Own work,CC BY-SA 3.0,Link)
タタールサンドボアはゴビ砂漠に生息する無毒のヘビで、砂に潜る習性がある。そのずんぐりとした体と、頭と尾の区別がつきにくい外見は、部分的に見ればワームのように見えなくもない。1983年の調査では、地元住民がこのヘビを見て「オルゴイ・コルコイだ」と証言した記録もある。
しかし、このヘビは赤くなく、もちろん電気も猛毒も持たない。では、なぜこれほど恐ろしい伝説が生まれたのか。その鍵は「コルコイ」という言葉にある。モンゴルの民間伝承において、「コルコイ」とは元々、危険な生物、特にヘビを指すタブー名(忌み名)だった。砂漠で起きる不可解な死や家畜の急死を、人々は目に見えない脅威、すなわち「コルコイ」の仕業として説明してきたのかもしれない。砂漠の過酷な自然への畏怖が、一匹の無害なヘビを、触れることさえ許されない死の怪物へと昇華させたのだ。

(画像=イメージ画像 generated using QWEN CHAT)