たとえば失言ばかりで人望があまりなさそうなのに、なぜか派閥のトップになっている政治家や、社員同士の会話にはあまり登場しないのに、社内のキーパーソンから一目置かれている人物など、表向きの人気とは無関係に力を持つ人がいます。

こうした現象を説明するために提唱されたのが、accuracy-as-advantageという理論です。
この理論が注目するのは、単なる人気や外見的な社交性ではありません。
「誰が誰とつながっているか」「グループ内でどんな対立や連携があるか」といった“ネットワーク構造”を正確に把握する力こそが、社会的な成功や影響力に直結するという仮説です。
つまり、「人間関係の地図」をより正確に頭の中に持っている人が、その集団内で情報を媒介したり、対立を避けたり、人々を動かす立場になりやすいのです。
こうした理論は、これまで組織内の人事、政治の舞台裏、ビジネスネットワークなどで注目されてきましたが、今回の研究ではそれがもっと身近な人間関係──大学生の友人関係においても再現されるかどうかが検証されました。
研究チームは、ブラウン大学の新入生187人を対象に、彼らの人間関係の形成と変化を1年にわたって6回調査しました。
その中で、従来型の「人気者」──つまり多くの人から友人だと思われている人が本当に影響力を持っているのかが検証されました。
ここでの「人気」は、自分を友人だと認識している人の数で測定されました。つまり「自分はこの人の友人だ」と名指ししてくれた人数が多いほど、その人は“人気者”とみなされたのです。
一方で、「影響力」は、単なる友人の多さではなく人間関係ネットワークの構造の中で、どれほど中心的な位置にいるかによって評価されました。
この“構造的な影響力”の指標として用いられたのが、固有ベクトル中心性(eigenvector centrality)と呼ばれるネットワーク理論の手法です。