3つ目のケースは2007年のもので、傷を負ってウジがわいた28歳の老齢メスに対して、その娘たちは一度は毛づくろいを試みましたが、ウジを見た瞬間に逃げ出しました。

母への愛着とウジ虫への本能的嫌悪が交錯した、複雑な感情の表れといえるでしょう。

4つ目のケースは1999年の例です。

死亡した12歳のオスには外傷がなく腐敗も見られませんでした。

「毛づくろい仲間だったサル」の娘は、その遺体に気づき、2分間にわたって毛づくろいを行いました。

これらの事例から明らかになったのは、ニホンザルが腐敗やウジに対しては明確な忌避反応を示す一方で、親密だった仲間の死には特別な関わりを持とうとするということです。

こうした特徴は、まさに人間の死生観に近いものがあります。

中道名誉教授も、実際の場面を目撃して、「サルとヒトの近さを実感しました」と語っています。

また、この研究は「死に対する行動が、生前の社会的な絆によって左右される」ことを、非人間動物において示した画期的な成果でもあります。

親族や親しい仲間の死を前にしたとき、私たちもサルも、同じような感情を抱いているのかもしれません。

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参考文献

サルも親しかった仲間の遺体に寄り添う
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2025/20250624_2

元論文

Responses to dying and dead adult companions in a free-ranging, provisioned group of Japanese macaques (Macaca fuscata)
https://doi.org/10.1098/rstb.2017.0257

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。