京都大学からスタートアップの世界へ——「技術」と「事業」の接点を探して
安藤氏のキャリアは、京都大学在学中に始まった。学生時代から複数の事業を立ち上げ、それらを売却(M&A)したり、先輩に引き継いだりと、実践的なビジネス経験を積んできた。
「当時は、起業というより、面白そうなことをどんどんやってみようという気持ちでした」
大学卒業後、一度は就職の道を選ぶも、すぐに辞めてスタートアップの世界へ。本格的に活動を始めたのは、AIやロボット技術で知られる「TRUST SMITH」にジョインしたときだ。
創業3カ月目の同社に飛び込んだ安藤氏は、文字通りゼロからの事業創造に携わった。AIアルゴリズムからロボット開発、PoC(概念実証)の立ち上げなど、多岐にわたる業務を経験。やがて、物流領域の現場で“解決すべきリアルな課題”と出会い、そこから誕生したのが、RENATUS ROBOTICSである。
「物流の完全無人化確定未来」——6分間のピッチに込めたビジョン
安藤氏がIVS LAUNCHPADに登壇したのは2023年。約300社の応募のなかから本戦に選ばれ、6分間のピッチで優勝を掴み取った。
彼がステージで掲げたのは、「物流の完全無人化確定未来」というメッセージ。この言葉は一見インパクト狙いに思えるが、裏には戦略がある。
約300社の応募の中から本戦に選ばれた 彼は、ステージに上がる直前、何を考えていたのか。彼がステージで掲げたのは、「物流の完全無人化確定未来」という、一見すると大胆すぎるメッセージ。安藤氏は、いかにして観客と審査員の心を掴んだのか。その「6分間」の舞台裏には、緻密な戦略と、人を惹きつける”物語”の力が隠されていた 。
「“確定未来”という表現には、我々の狙う市場は必ず拡大する、という確信を込めました。未来予想ではなく、“必然”としての市場成長を投資家に伝えたかった」
ピッチとは、プロダクトや収益モデルを説明するだけの時間ではない。聴衆の記憶に残るストーリーを描き、共感を呼ぶ“演出”が必要だ。
「僕の場合、ステージ全部を使って動いたり、発声やテンポにも気を配ったりしました。観客に“楽しんでもらう”ことを意識して、まるで短編映画のようにピッチを構成したんです」
ピッチを“ショートムービー”と捉えるこの姿勢は、従来の起業家像とは一線を画している。そこにあるのは、数字とテクノロジーだけでなく、“人の心を動かす”という演劇的な要素だ。
