このような背景を踏まえ、研究チームは、「暑熱下では、運動中にカフェインを摂取することで、有害な生理的ストレスを回避しつつ、パフォーマンス向上の恩恵を受けられるのではないか」という仮説を立てました。

この仮説を検証するため、健常な若年男女12名(男性7名、女性5名)を対象に、気温35℃・湿度50%の暑熱下で中強度および高強度の自転車運動を組み合わせた実験を行いました。

被験者はまず、最大酸素摂取量(VO2peak)の55%で30分間の中強度自転車運動を行い、次いで90%で疲労困憊に至るまでの高強度運動を行います。

その途中、運動開始5分後に、体重1kgあたり5mgのカフェインまたはプラセボ(ブドウ糖)を摂取しました。

では、暑熱下における運動中のカフェイン摂取はどのような効果をもたらしたのでしょうか。

暑熱下での「運動中のカフェイン摂取」はパフォーマンスを向上させる

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暑熱下での「運動中のカフェイン摂取」は、大きなデメリットも見られず、パフォーマンスを向上させる / Credit:筑波大学

実験の結果、カフェイン摂取群では、血中カフェイン濃度が緩やかに上昇し、最終的に高強度運動の継続時間がプラセボ群より平均で53秒延長しました。

また、中強度運動終了時に記録された「主観的なきつさ」も、カフェイン群の方が明らかに低く、身体的な負荷をより軽く感じていたことが示されました。

さらに、深部体温、換気量、脳血流量といった生理学的指標には、カフェイン摂取による有意な増加は見られませんでした。

これはつまり、暑熱下でカフェインを「運動中に」摂取した場合、生理的ストレスを増大させることなく、運動能力を向上させたことを意味します。

なぜこのような好結果が得られたのでしょうか。

研究チームは、従来よりも摂取タイミングを遅らせることで血中カフェイン濃度が徐々に徐々に上昇し、生理応答が過度に刺激されなかったことが要因と考えています。

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暑い夏にパフォーマンスを高めたいなら、運動中にカフェインを摂取すると良いかも / Credit:Canva