一体どのようにして、この夢のような技術を実現したのでしょうか?

研究ではまず、小さな生物である「大腸菌(E. coli)」の遺伝子を操作し、ある特定の物質を自力では作れない状態にしました。

その特定の物質とは、「パラアミノ安息香酸(PABA)」というビタミンの一種です。

実は大腸菌にとって、このPABAはとても重要な栄養であり、これがないと増えることができず、生き延びることもできません。

通常の大腸菌はPABAを自分で作れるのですが、あえてその能力を遺伝子操作で奪い取りました。

こうすることで、この特殊な大腸菌は、外からPABAを与えられない限り生存できない、という状況を作り出したのです。

ここまでが準備段階です。

次に研究チームは、ペットボトルに使われるプラスチック(PET樹脂)を化学処理して、「PABAの元になる特別な分子」を作り出しました。

ただし、このままではその分子は大腸菌の栄養として利用できません。

そこで登場したのが、細胞内で起こすことが難しいとされていた「ロッセン転位」という特殊な化学反応でした。

ロッセン転位とは、ある物質の構造を少しだけ変化させて、全く別の有用な分子に変える反応です。

これまでは、この反応を細胞の中で穏やかな条件下で起こすことはできないと考えられていました。

しかし今回、研究者たちは、リン酸塩という細胞内に自然に存在する安全な物質を利用することで、生きた大腸菌の細胞内でもロッセン転位を起こすことに成功したのです。

研究者たちは、この特殊な大腸菌にプラスチック由来の「PABAの元になる分子」を与えてみました。

すると、大腸菌の中で見事にロッセン転位が起き、プラスチック由来の分子がPABAに生まれ変わりました。

つまり、本来は使えなかったプラスチックの成分が、大腸菌にとって命をつなぐ大切な栄養に変化したのです。

そして研究はさらに次の段階へ進みました。