米造船業界は少数の大手造船所に依存しており、人的資源や熟練労働者の不足により船舶の建造が予定より数年遅れるケースが多発している。老朽船舶のオーバーホールや整備も滞り、船舶の稼働率が低下し、労働力不足や生産性の低下により、船舶1隻当たりの建造コストも増加している。造船業界における下請け・部品供給のサプライチェーンも縮小傾向にあり、自給自足能力が脅かされている。
こうした米国の造船業の衰退は、海軍の建造能力にも大きな影響を与えている。例えば、予算超過が常態化し、他の重要な軍事プロジェクトに割く資金を圧迫しており、艦艇の修理や建造すら、日韓の造船所に依存せざるを得ない場面も増えている。有事や戦争勃発時においても、急速な艦艇増産が困難な状態に陥っており、持続的な即応力・戦力投射力・抑止力に大きな懸念がある。
現在、米海軍は、中国やロシアといった戦略的競争相手に対する優位性が揺らぎつつあることを憂慮し、艦隊の規模維持・拡大を目指しているが、新造艦の建造が全く追いついていない。
日米造船業へ積極的支援を打ち出す日本政府
中国が国家戦略として造船業を強化し、毎年10隻近くの軍艦を建造しているのに対し、米国は駆逐艦クラス1~2隻を建造するのがやっとという状況にある。米政府・議会は近年、造船業への投資・労働者育成・設備近代化支援を強化し始めているが、回復には長期的な戦略と実行力が不可欠だ。米国の造船業は「かつての栄光」からはほど遠く、今や同志国の支援なしには維持が難しい状態に陥っている。
こうした状況に対し、日本政府は、国内及び同志国への造船業支援策として「国立造船所構想」を打ち出した。その本旨は、「国が造船所を建設して民間に貸与」、「1兆円規模の官民の基金設立」、「経済安全保障推進法の特定重要物資に船体を追加」、「デジタル技術の導入による効率化」、「同志国向けの船舶建造、修繕を拡大、技術支援の仕組み構築」などで、他国に過度に依存することのない海事産業全体の再生を目指し、さらに米国の造船業復活を支援する。